#5「宵闇通りの見世物小屋」
(♂3:♀2:不問0)上演時間30~40分
――――――――――――――――――――――――――――――――――――
泰山
【宵闇泰山(よいやみたいざん)】男性
見世物小屋「鉤爪の子猫座」の親方。
かつては「宵闇電柱の赤マント」と呼ばれていたらしい。
克也
【百道克也(ももちかつや)】男性
可南子の父親。
可南子の予知能力を利用して金儲けをしている。
マリエ
【エトワール・マリエ】男性
「鉤爪の子猫座」の芸人で、翼の生えた女性口調の美男子。
可南子
【百道可南子(ももちかなこ)】女性
「宵闇通り」を通って「鉤爪の子猫座」に迷い込んできた、
予知能力を持つ10歳の少女。
小桜
【蛇腹の小桜(じゃばらのこざくら)】女性
「鉤爪の子猫座」の芸人で、巨体の蛇女。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――
―プロローグ/口上
(鈴の音)
泰山:さあさ、寄ってらっしゃい見てらっしゃい!ここが噂の見世物小屋、「鉤爪の子猫座」だ!東西南北の珍奇が集まる、今や絶滅寸前の見世物小屋はこちらだよ!大人800円、子供は500円!お代は見てのお帰りだ!金のない奴ぁ帰った帰った!親の金貰って出直してきな!さあさあ!「鉤爪の子猫座」、間もなく始まるよ~!
んん?こいつぁ……
【間】
―掘っ立て小屋
小桜:なんだいその子は。
可南子:っ……!
マリエ:小桜姐さん、そんなに凄まないであげて。可哀想じゃない。
小桜:凄まなくたって、どうせこの身体を見りゃあ同じだろ。
可南子:(ほうと嬉しそうにため息をつき)カッコいい……!
小桜:ああ?
小桜:あたしをお舐めでないよ。なんたってあたしは
泰山:(さえぎって)さあ皆さんお待ちかね!これよりお目に入れまするは、なんとも奇怪な蛇女!身の丈2.5メートル、蛇腹(じゃばら)の小桜でございます!
可南子:へびおんな?
泰山:東北で発見されたこの小桜、身体には無数の鱗、舌先はちょろりと二股に分かれ、その胴は蛇のようにうねる、なんとも奇怪な姿。しかもなんと
小桜:(さえぎって)こんなちんちくりんに口上述べてどうすんだよ。
泰山:いいところで中断するんじゃあないよ、小桜。ちんちくりんだって、お客はお客だろう?
小桜:お代も払えないようなガキが、お客であるもんか。
マリエ:あら、私はその口上を聞くの好きよ。(可南子に)ねえ?楽しいわよね?えっと……お名前は?
可南子:百道可南子(ももちかなこ)です。
マリエ:まあ、しっかりしているのね。いくつ?
可南子:十歳。道塚(みちづか)小学校、三年です。……お姉さん?お兄さん?どっちか分からないけど、きれいね!
小桜:(笑う)
マリエ:……ありがとう。
可南子:その背中の羽は本物?
マリエ:(微笑んで)さあ、どっちかしら。ねえ、この子本当にいい子よ。
小桜:ただのいい子がこんなところに来るものかい。親方、あんたがどこかから連れ去ってきたんじゃあないのかい?
泰山:……なんだと?
小桜:(下品に笑う)「宵闇電柱の赤マント」様がさぁ。
泰山:それ以上言ったらその蛇腹、引きちぎるぞ。
小桜:ああ懐かしいねえ、その赤光りする目。
マリエ:やめなさいよ、二人とも。今はそんなことを言っている場合じゃあないでしょう?それに、古株のあなた達が喧嘩したら、こんな掘っ立て小屋、あっという間にバラバラよ?
小桜:所詮まやかしの見世物小屋に、なんの価値があるのさ。
泰山:てめえ、俺の小屋にケチつけようってのか。
可南子:(泣きだす)
マリエ:ああ、そうよね。怖かったわよね。お姉さんが守ってあげるから、大丈夫。……二人とも、いい加減にして。
小桜:(鼻で笑う)はっ!「お姉さん」ねえ。
マリエ:いい加減にしないと、本当に怒るわよ。団長が言っていたわね。私たちの力は、絡みついた因果の歴史だけでなく、因果の重さも影響するって。因果の重さと生々しさなら、折り紙つきよ。……もう一度言うわ。いい加減にして。
泰山:……
小桜:……ちっ。
可南子:お姉さん……。
マリエ:もう大丈夫、怖くないわよ。
小桜:このちんちくりんをどうにかしないと、話が進まないからね。仕方ない。
泰山:新入りのマリエにびびっちまったとは、さすがに言えねえか。(笑う)
小桜:あん?
マリエ:やめなさいってば。ねえ、あなたはどうしてここにやってきたの?教えてくれる?
可南子:……わかんない。走っていたら段々周りが真っ暗になっていって、気付いたらここにいたの。
泰山:「宵闇通り」を通ってきたんだな。
マリエ:なんですって?
小桜:つまり、表の客でなく、裏の訳アリ客ってことかい。
マリエ:(ため息)可南子ちゃん、私たちは……
小桜:ああん?
マリエ:(咳払い)「私は」、あなたの力になるわ。だから
可南子:(さえぎって)……お父さんが。
マリエ:……聞かせて頂戴。
【間】
―可南子の回想
可南子:お父さん……
克也:なんだ、まだ支度していなかったのか。早くしろ。(可南子を叩く)
可南子:うっ!
克也:客が待ってる。
可南子:でも、私もう……
克也:……なんだその目は。
可南子:え?
克也:役立たずのお前を育ててやっている恩を忘れたのか?
可南子:そんな……
克也:役立たずは役立たずなりに、恩に報いようとは思わないのか?ええ?(叩く)
可南子:あうっ!お父さん、別に私、そんなつもりじゃ。
克也:(叩く)そんなことも思えないくらい役立たずになったのか?
可南子:お父さん、やめて!
克也:(叩く)
可南子:ごめんなさい……!
克也:……ふう。ほら、立て。もう時間がない。
可南子:……お父さん。
克也:なんだ、まだ文句があるのか?
可南子:お兄ちゃんと、お母さんは、元気?
克也:……知らないな。
可南子:そう、だよね。
克也:あいつらはお前を捨てて逃げたんだ。お前が眠っている間に、まだ幼いお前を置いてな。
可南子:……
克也:捨てた人間より、拾ってやった人間だろう?……畜生、どうせなら雅治(まさはる)も置いていきゃ、もっと儲けられたのに。
いいか?お前と雅治の「未来を見る力」は金になる。持っているものは有効に使うのが、道理ってものだろう?
可南子:でも
克也:(さえぎって)あいつらは負け組だ。金になればいい暮らしもできるっていうのに、それを拒否して逃げやがった。そら結局、俺の方がよほどお前のことを考えてる。
可南子:お父さん、あのね
克也:(無視して)ちっ、つまらないことを話させるな。今日は予約が多いんだ。早くしろ。
【間】
―掘っ立て小屋
小桜:(大笑い)
泰山:おい小桜、話に水を差すんじゃないよ。
マリエ:それに、笑い事じゃないわ。
小桜:これが笑い事でなくて何だって言うのさ。いつの時代も変わらないねえ!ああおかしい!
可南子:……
マリエ:力であれなんであれ、常識から外れたものの辿る道は、いつも同じということよ。それを笑うなんて酷いわ。かわいそうに。
小桜:お嬢ちゃん、あんたここに残りなよ。あんたぁ、立派な因果の持ち主だ。天国でも地獄でも持て余すほどのね。
可南子:いんが?
マリエ:やめて。こんな小さな子に、なんてことを。
小桜:天国にも地獄にも行き場のないあたしらは、こうして見世物でいるのがお似合いなんだよ、結局。
可南子:見世物ってなあに?
泰山:(鈴を鳴らす)さあさ、寄ってらっしゃい見てらっしゃい!ここが噂の見世物小屋「鉤爪の子猫座」だ!東西南北の珍奇が集まる、今や絶滅寸前の見世物小屋!親の因果が子に報い、蛇の異形(いぎょう)となりし「蛇腹の小桜」!男女の境を見失い、恨みの火を吐く火食鳥(ひくいどり)、「エトワール・マリエ」!他にもまだまだ!まだまだいるよ!「宵闇通り」を通ってきたなら、ここは因果のゴミ捨て場!その名も「鉤爪の子猫座」さ!さあ、お嬢ちゃん。続きを聞かせておくれ。……ここからは、お嬢ちゃんの「見せ場」だ。
【間】
―可南子の回想
可南子:お父さん、あのね!
克也:まだ文句を言うのか?
可南子:(食い気味に)もう、見えないの。
克也:……は?
可南子:見えなくなっちゃたの。未来。
克也:は?お前何言って………は?
可南子:もう見えないの。だからもう……
克也:うるさい!(叩く)
可南子:ああっ!
克也:なあ可南子?
可南子:ぐっ……痛い、痛いよ……!お父さん、放して……。
克也:お前、嘘を吐いているんだろう?
可南子:え……?
克也:最初からお前は、この商売に乗り気じゃなかったもんなあ?そうだろう?
可南子:おとうさ……何言って……
克也:だから嘘を吐いて、逃げようとしてるんだ。
可南子:違う、違うよ!
克也:(叩く)
可南子:うっ!
克也:(何度も叩く)
可南子:やだ、お父さん、やめて……!
克也:お前も雅治も、あいつも、悲劇の主人公ヅラしやがって。
可南子:お、とう、さ……
克也:(叩くのをやめて)……いいや、違うな。
可南子:え?
克也:お前たちが間違っているんだ。
可南子:……は?
克也:与えられた力を正しく社会のために使って、一体何が悪いんだ?
可南子:そうじゃないよ。高いお金を取ったり、意味のないお守りを高く売ったりするのが
克也:(無視して)普通の人間ではできないことをしてやって、それに見合った報酬を受け取っているだけだ。それの何が悪いんだ?
可南子:お父さん!
克也:そうだ。俺はなんにも間違っちゃあいない。お前たちが間違っているんだ。
可南子:そんな……
克也:あの女、頭も器量も凡庸(ぼんよう)なくせに、したり顔で俺に説教をしやがって。雅治はあの女にそっくりだったなあ。えらっそうに、「可南子を守る」だと?馬鹿馬鹿しい。
可南子:ねえ、お父さん!
克也:可南子。
可南子:ひっ!
克也:お前はまだ引き返せるだろう?だってお前は一人じゃあ生きられない。俺の力を借りないと生きられない、ちっぽけな存在だ。
可南子:こ、ないで……
克也:俺がちゃあんと、お前とその力を守ってやるからな。
可南子:いやだ……
克也:ちょっとわがまま言ってみたかっただけなんだよな。
可南子:違う、本当に
克也:ほら、行くぞ。
可南子:やめて!(克也を突き飛ばす)
克也:うっ!
【間】
―掘っ立て小屋
泰山:突き飛ばされた父親は、古びたタンスの角にしたたか頭を打ち付け、動かなくなりました。父を殺めてしまったと慄(おのの)いた少女は、宵闇通りをひた走り、ここ「鉤爪の子猫座」へとたどり着いたわけであります。なんと業(ごう)深いことでありましょうか!
マリエ:親方、悪趣味が過ぎるわ。
可南子:私、もうどこにも行けない。
小桜:……ふん、死んだ父親の言うことももっともだぁね。
マリエ:小桜姐さん。
小桜:勘違いするんじゃあないよ、マリエ。まだ子供のこいつは、確かにひとりでは生きられないってことさ。しかも父親を殺しちまったんじゃあ余計だ。
マリエ:そうかもしれないけれど。
泰山:おいおいお前たち、俺の口上をちゃあんと聞いていたかあ?
小桜:あんたの下手な口上にはうんざりなんだよ。聞いてるわけないだろ。
マリエ:どういうことなの、親方。
泰山:父親は死んじゃあいない。お嬢ちゃんが「殺した」と思い込んだだけさ。
可南子:え?
泰山:当り前だろ。大の男が、こぉんな小さな女の子に突き飛ばされたくらいじゃ死にゃあしねえよ。ちょっと気を失っただけだな。
小桜:それでも事態は変わらないだろ。むしろ悪くなったんじゃないのかい?因果の鎖が増えたんだからねえ。
泰山:(鈴を鳴らす)さあさあ、お立合い!
小桜:なんだい、まだやんのかい、その下手くそな口上。
泰山:聞いておいた方がいいぜ。今日の一番の目玉さ。
マリエ:まさか。
泰山:さすがマリエ、察しがいいねえ。(以下口上)……これよりお目にかけまするは自己肯定の化け物!真っ赤な顔と吊り上がった目は、なんともさながら鬼の如し!少女と強固に結びついた因果の鎖を手繰(たぐ)りながら、「宵闇通り」をどたどたと、まもなくこの舞台に現れようとしております!
小桜:(にやりと笑い)なんだい、そういうことかい。客は丁重に扱わないとねえぇ。
マリエ:……
(克也が入ってくる)
克也:かぁぁぁなぁぁぁぁこぉぉぉぉぉ!
可南子:おとうさん……!
克也:見ろよ、ほら。血だよ血!俺の頭から血が出てるじゃあないか。
可南子:ごめんなさいごめんなさい!
克也:今日の予約もキャンセルする羽目になって、どうするつもりだ可南子ぉ?
可南子:でも、もう見えないから
克也:(聞いていない)もっとちゃあんと話し合わないと駄目なようだなあ?
可南子:やだ……いやだ……!
克也:かぁぁぁぁなぁぁぁぁこぉぉぉぉぉ!
(鈴の音)
小桜:なるほど、こりゃあ確かに鬼だわなあ。
克也:なっ!?なんだ、この化け物は……!
小桜:嫌だよぉ旦那ぁ。あんた、あたしらよりも余程化け物じみてるじゃあないか。
克也:なんだと!?
泰山:さあさ、寄ってらっしゃい見てらっしゃい!ここが噂の見世物小屋、「鉤爪の子猫座」だ!東西南北の珍奇が集まる、今や絶滅寸前の見世物小屋はこちらだよ!
克也:見世物小屋だと?ふん、子供だましで金を巻き上げるような低俗な奴らじゃあないか。親子の話に口を挟むんじゃない!
泰山:(笑う)金なんか巻き上げないさ。
克也:はあ?
泰山:俺たちは客の「因果」を、ほんの少し分けてもらうだけさ。
克也:何を訳の分からないことを。
泰山:なあに、最後まで見ていけばいい。ほら小桜、出番だよ。
小桜:なんで肝心な時に口上述べないんだよ、くそ野郎が。
克也:やめろ!近寄るな!……可南子、帰るぞ!
小桜:そう言わずに見ておいきよ。あたしの姿と因果をさ。
克也:ひっ!
泰山:親の因果が子に報い。
小桜:小さな村の小さな祠、そこに住まう名もなき神に、家の繁栄と引き換えに、生贄の娘が捧げられた。神はたいそう大事に娘を愛し、そして娘もまた神を愛し、娘の家には大いなる恩恵が授けられた。
泰山:それなのに、嗚呼それなのに。
小桜:(笑う)娘の両親は欲に駆られ、あろうことか龍神に、権力者に嫁がせるから娘を返せ、とのたまいやがった。
泰山:怒り狂った龍神は大蛇となって村に現れ、家も人も飲み込み大暴れ。しかしついに、権力者にやとわれた兵(つわもの)に、ばっさり真っ二つに斬り殺された。
小桜:怒り狂った娘から生まれたのは、なんとなんと!巨大な蛇女だったとさあ!(笑う)
克也:そ、そんな作り話、どこにでもあるだろう!くだらない!
小桜:作り話かどうかは好きに判断すりゃあいいさ。あたしたちはあくまで見世物だからねえ。だからほぉら、この裂けた口であんたを飲み込む素振りをするだけだよ。……うっかり本当に、飲み込んじまうかもしれないけどねえ?
克也:やめろ!
小桜:シャァァァァァァァァァッ!(脅しになればどんな声でもいいです。)
克也:うわぁぁぁぁ!
(鈴の音)
マリエ:久しぶりね、あなた。
克也:その声、その顔……!?雅治か?
マリエ:いいえ私はマリエ。いいえ私は雅治。
克也:マリエ……?
泰山:どうだい?息子と同じ顔が妻の名を名乗り、妻と同じ口調で話すなんて、なかなかに粋な趣向だろう?
克也:いい加減にしろ!一体……一体何のつもりだ!マリエも雅治も、もうこの世にはいないんだぞ!
可南子:……え?
克也:どいつもこいつもしたり顔で俺を否定しやがって!せめて可南子を見守れるよう、仲良く一緒に庭に埋めてやったんだ!ありがたく思え!
マリエ:私はマリエ、私は雅治。私たちの因果は土の中で絡み合い、ひとつになった。
可南子:庭……?つちの、なか……?まさか……!
マリエ:会えて嬉しいわ、あなた。いつかまたこうして会えると思ってた。だって私たちの因果は繋がっているものね。
克也:やめろ……来るな……!
マリエ:まだ私の芸を見せてないわ。ほら見て行って?私の芸を。……「火食鳥(ひくいどり)」、エトワール・マリエの恨みの火吹きをねぇぇぇぇぇぇ!
克也:うわぁぁぁぁ!熱い!熱いぃぃぃぃ!
マリエ:いやだ、少し前髪が焦げたくらいで大袈裟ね。昔からあなたはそうだった。ああ、本当に変わらないのね。(笑う)
可南子:お母さん……?お兄ちゃん……?
マリエ:私はマリエ、私は雅治。つまりどちらでもないわ。
可南子:そんな……そんな……(泣く)
克也:……はぁっ、はぁ……!もう十分だろう、可南子。こんな怪しげな奴らを使って俺に腹いせしやがって。え?満足か?ほら帰るぞ!
可南子:いやっ!
克也:可南子!
可南子:いやったらいやぁ!
克也:いい加減にしろよ可南子ぉ?
小桜:まだ終わってないんだよ、旦那。
泰山:やあれやれ、今宵のお客様は、大層お行儀が悪くていらっしゃる。
克也:なんだ、まだあるのか。これ以上つまらない芸に付き合う筋はない!可南子!来い!
可南子:やだぁぁぁぁぁぁぁ!
泰山:……俺はかつて「宵闇電柱の赤マント」と呼ばれた男でねえ。
克也:はあ?知るかそんなこと!
泰山:因果にとらわれた可哀想な子供たちを、救おうとしただけなんだよ。
克也:だから可南子を、ってか?馬鹿馬鹿しい!
泰山:その子らの因果を一手に引き受けて、楽しいところへ連れて行ってやろうとしただけなんだよ。
克也:綺麗事言っちゃあいるが、結局ただの人攫(さら)いだろう?
泰山:そうさ、結局人攫いだ。間抜けな人攫いは、やがて見世物のように私刑(リンチ)にあい、ゴミ捨て場で野垂れ死んだとさ。
克也:可南子を誘拐しようとしたこと、帰ったらすぐに通報してやる!お前らみんな破滅しろ!
泰山:破滅するのはあんただよ。
克也:はあ?
泰山:俺には小桜やマリエのような芸はない。だがな親父さんよ。最高の見世物を紹介してやることはできるぜ?
克也:もう十分だ。馬鹿にしやがって!
泰山:(鈴を鳴らす)さあ、本日トリを飾りますのは、己の因果を嘆き、逃れようともがいた結果、首だけが長ぁく伸びてしまった悲劇のろくろ首、「悲鳴の可南子」でございます。
克也:なん、だって?
可南子:うわぁぁぁぁぁぁぁぁん!(激しく泣きじゃくる)
克也:可南子、その首は……!?なんで!?
可南子:(泣きじゃくる)
マリエ:可哀想に。自分の身に起きたことを受け止められないまま、ここにやってきたのね。
小桜:そして親父さん、あんたは自分のしでかしたことを都合よく忘れて、ここにやってきた。
克也:意味の分からないことを言うな!可南子を元に戻せ!
小桜:無駄だよ。
克也:何故!
マリエ:気絶から覚めたあなたは、そばで泣きじゃくるこの子の首を絞めた。
克也:は?
泰山:嗚呼、嗚呼!可哀想に!小さな身体で必死に己(おの)が因果に逆らうも、やがてゆっくりと力を失うその身体!どんなに悲劇的だったことか!
克也:う、嘘だ!そんなこと、あるはずがない!そう、全部夢だ、夢なんだ!
可南子:(号泣)
泰山:夢だと思うなら夢で構わないさ。ただしお代は置いて行ってもらうよ。
マリエ:お代はあなたの因果をほんの少し。
小桜:少しのズレが別の因果を引き寄せる。ほおら、ショウのクライマックスだ!しっかり見ておいきよ!(笑う)
克也:ひ……!
マリエ:それではサヨウナラ。
泰山:「鉤爪の子猫座」一同、勢揃いでのお見送りだぁ!
克也:うわああああああ!
※以下同時に
(泰山・小桜・マリエの大笑い)
(可南子の号泣)
【少し長めの間】
小桜:で?あのおっさんはどうなるのさ?
マリエ:恐怖に錯乱して、街を徘徊。いずれ全てが暴かれるわ。
小桜:はん、「未来を見る力」は健在なのかい。
マリエ:己の罪をどこまで認めるかは、分からないけれどね。
小桜:あたしらが頂戴した因果はほんのわずかさ。全てが暴かれる結果になっただけ、あんたらにとっちゃ救いなんじゃないのかい?
マリエ:どうかしらね。
小桜:ま、あたしらの役目は懲らしめる事じゃあないからねえ。
マリエ:そうね、私たちは神様でも悪の遣いでも、なんでもないもの。
小桜:そういうこった。
可南子:(しくしくと泣いている)
マリエ:可哀想な子。こんなところで見世物になるしかないなんて。
小桜:ここにいるのは、自分の因果にとらわれて、天国にも地獄にも向かえない奴ばかりさ。少なからずこの子が選んだことなんだ。いつまでも憐れんでるんじゃないよ。
マリエ:今夜くらいはいいでしょう?
小桜:知らないね。あたしはそういうのは嫌いさ。……ま、兄ちゃんだか母ちゃんだか知らないが、好きにしなよ。
マリエ:ええ、そうするわ。
【間】
―エピローグ/口上
(鈴の音)
泰山:さあさ、寄ってらっしゃい見てらっしゃい!ここが噂の見世物小屋「鉤爪の子猫座」だ!東西南北の珍奇が集まる、今や絶滅寸前の見世物小屋はこちらだよ!大人は800円、子供は500円!お代は見てのお帰りだ!金のない奴ぁ帰った帰った!親の金貰って出直してきな!……おや、あんたは?そうか、あんたは「宵闇通り」を通ってここに来たのか。それなら話は別だ。お代はあんたの「因果」を少し。最後まで楽しんでってくんな。さあさあ入った入った!「鉤爪の子猫座」、間もなく始まるよ~!
――――――――――――――――――――――――――――――――――――
【幕】