#15「墜落方程式」
(♂1:♀1:不問0)上演時間20~30分
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・ヨル
【不二夜一(ふじよいち)】男性
通称「ヨル」。大学三年生。トイとは高校の同級生。
飲み会の帰りにトイと再会する。
・トイ
【都井みこと(といみこと】女性
通称「トイ」。ヨルとは高校の同級生。
飲み会帰りのヨルに声を掛ける。
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―夜の路上
トイ:ヨル君?
ヨル:え?
トイ:ほら、私。高二の時に同じクラスだった、都井(とい)。都井みこと。
ヨル:トイ……。
トイ:あれ?もしかして覚えてない?
ヨル:いや、そんなことは。
トイ:そっか、良かった。
ヨル:ただ……随分変わったな、って思って。
トイ:ああ、もしかしてこの髪?
ヨル:随分ばっさりいったな。高校の時はすごく長かったろ?服装だって、前はそんなボーイッシュじゃなかった気がするんだけど。
トイ:似合わない?
ヨル:そんなことは。
トイ:また「そんなことは」って。ヨル君ってば変わらないね。
ヨル:えっと……
トイ:口癖だよね、それ。
ヨル:ごめん、自覚ないや。
トイ:癖なんてそんなもんでしょ。
ヨル:そうかもしれない。
トイ:ていうか、こんなところで呼び止めたりしてごめんね。
ヨル:いや、ちょうど飲み会を抜け出してきたところだし。
トイ:そっか、ヨル君は花の大学生か。
ヨル:おっさんみたいな言い方するなよ。あと、そういうのは大学に入りたての奴に使うもんだと思うけど。
トイ:あれ、そうなの?
ヨル:多分。
トイ:あはは、ごめんごめん。私大学に進まなかったから、そういうの知らないんだ。
ヨル:……
トイ:ねえ、今って暇だったりする?
ヨル:まあ、暇と言えば暇。
トイ:ならさ、ちょっとだけ付き合ってくれない?
ヨル:付き合う?
トイ:私、晩御飯まだなの。一緒に食べよ。ファミレスでいいからさ。
ヨル:え。
トイ:ああ、お腹空いてないなら見てるだけでもいいよ。一人で食べるの、好きじゃないの。だから、お願い。
ヨル:別に、いいけど。
トイ:ありがとうね。
【間】
―ファミリーレストラン
トイ:はー、食べた食べた。
ヨル:なあ。
トイ:ん?
ヨル:お前、本当にトイ?
トイ:へ?
ヨル:やっぱり、俺の知ってるトイとはだいぶ違うから。
(トイ、くすくすと笑う)
トイ:やあだ今更?
ヨル:今思い出したけど、トイは俺の事「不二君」って呼んでただろ。
トイ:でもみんなは「ヨル君」って呼んでたでしょう?
ヨル:そうかもしれないけど。
トイ:ずっとそう呼んでみたかったの。
ヨル:あと、トイはそんな風に明るく笑うタイプじゃなかったよ。そんなに沢山食べる奴でもなかった。いつも、すごく小さな弁当をすごく時間をかけて食べてた。
トイ:たった一回キスしただけの相手の事、よく覚えてるね。
ヨル:……っ!
トイ:これで、私がトイだって証明できた?
ヨル:……ああ。
トイ:あれ、まだ納得いってない顔。
ヨル:そんなことは。
トイ:またそれ。
ヨル:ごめん。
トイ:別にいいけどさ。私それ、嫌いじゃなかったし。
ヨル:変なの。
トイ:そう?「そんなことは」で切るってことは、「そんなことはないかもしれないけど、『ない』とも言い切れない」ってことでしょう?そういうグレーゾーンな表現、好きだよ。「ない」と「ないとは言えない」の間には無限の可能性がある気がして。
ヨル:むしろ「はっきりしない」ってずっと言われてきたんだけど。
トイ:まあ白黒はっきりつけたい時には、むかつくのかもね。
ヨル:……だろうな。
トイ:ヨル君はさ、本当に変わらないね。
ヨル:それ、成長していないって皮肉?
トイ:ううん、羨ましいなって。
ヨル:え?
トイ:変わらないでいられる、っていいじゃない。
ヨル:トイは、好きで変わったんじゃないってこと?
トイ:どうかな。
ヨル:でも、髪を切るにしても、服装のイメージを変えるにしても、それって全部トイ自身の意思だろう?
トイ:まあそれはそうだけど。
ヨル:変なこと言うなよな。
トイ:あはは、ごめんごめん。
ヨル:あ。
トイ:ん?
ヨル:……終電、逃した。
トイ:ありゃ、ほんとだ。
ヨル:まあもともとオールの飲み会の予定だったから、俺はいいんだけど。
トイ:そういえば、今日ってなんの飲み会だったの?
ヨル:ゼミの飲み会。俺ら三年生の歓迎会みたいな。
トイ:へえ、楽しそう。
ヨル:俺は楽しくない。あんまり好きじゃないんだよ、飲み会。
トイ:抜け出すくらいだもんね。
ヨル:まあね。
(少しの間)
ヨル:……でさ。
トイ:なあに?
ヨル:わざとだったりする?
トイ:何が?
ヨル:終電逃したの。
トイ:そんなことは。
ヨル:真似するなよ。
トイ:ごめんごめん。でも本当にグレーゾーンだったから。
ヨル:グレーゾーン?
トイ:わざと逃したい気もしたし、別に逃さなくてもいいような気もしていたし。
ヨル:結局逃したなら、わざとだろ。
トイ:そういうことになるのかな。
ヨル:なる。
トイ:そっかあ。
ヨル:で、どうするの?
トイ:あれ、付き合ってくれるの?
ヨル:結果とはいえ、乗っかった船だからな。
トイ:じゃあ、ホテルとかは?
ヨル:え?
トイ:行ってみたかったの、ラブホテル。
ヨル:えっと……
トイ:別に何にもしなくていいよ。してもいいけど。
ヨル:おい。
トイ:あはは。やっぱり嫌?
ヨル:そんなことは。
トイ:ヨル君に案がないなら、私が決めてもいい?
ヨル:もう決まってるようなもんじゃないか、それ。
トイ:まあね。でも本当に、何もしなくていいから。
(ヨル、ため息をつく)
ヨル:……分かった。
【間】
―とあるホテルの一室
(トイ、部屋中をきょろきょろと見渡している)
トイ:おお……
ヨル:なんだよ。
トイ:思ったより普通だ。
ヨル:どんなのを想像してたわけ?
トイ:んー、なんていうか、けばけばしいライトとか、回るベッドとか。
ヨル:いつの知識だよ。
トイ:仕方ないでしょ、行ったことないんだから。
ヨル:……風呂くらいは光るんじゃない?
トイ:え?ほんとに?
(トイ、風呂場へ)
トイ:あ、ほんとだ!すごーい!めっちゃ点滅してる!ウケる!
(ヨル、ため息をつきながらベッドに腰を下ろす)
(トイ、風呂場から顔を覗かせる)
トイ:ヨル君、詳しいの?こういうとこ。
ヨル:なんで?
トイ:だって結構さくさくと北口まで来たから。
ヨル:別に。ただ、北口にラブホが多いってのは同期に聞いてたから。
トイ:ほっほーう?
ヨル:行ったことはないよ。
トイ:なあんだ。つまんない。
(トイ、風呂場を出てヨルの隣に腰を下ろす)
ヨル:……
トイ:……
ヨル:あの、さ
トイ:(かぶせて)ねえ、思い出話しようか。
ヨル:え?
トイ:なんか変な雰囲気になりそうじゃん。こうして黙ってると。
ヨル:ならないよ。
トイ:まあどっちだっていいけど。せっかくの再会だしさ。ちょっとだけしようよ、思い出話。
ヨル:……「墜落方程式」?
トイ:よく覚えてたね。
ヨル:まあ、「きっかけ」だったから。
トイ:そうだよね。それは、確かに。私がノートに書いてた「墜落方程式」をクラスの男子に見られたのが、「きっかけ」だったね。
ヨル:ああ。
トイ:キリタニ君とかカザマ君とかがめちゃくちゃからかってきてさ。今思い出してもむかつく。
ヨル:それじゃあその時そう言えばよかったのに。ずっと黙って俯いてないでさ。
トイ:あの時の私にそれが出来たと思う?
ヨル:……いいや。
トイ:でしょ?
ヨル:……
トイ:でもさ、ヨル君は違った。じっとそのノート見て、よりにもよって「ここ計算違うよ」なんて大真面目にさ。
ヨル:……気になったから。
トイ:でもそれが嬉しくて。
ヨル:だから、その場でキスなんかしたの?
トイ:あの時はごめんね。地味で友達もいない私がそんなことをしたもんだから、その後しばらくネタにされちゃってたもんね。
ヨル:それは本当にむかついた。
トイ:だよね。
ヨル:でもそれっきりだったから、それはそれで拍子抜けした。
トイ:だって、付き合いたいとかそういうわけじゃなかったんだもの。
ヨル:それでキスなんかする?
トイ:なんていうか、あれは本当に衝動だったの。
ヨル:衝動?
トイ:嬉しかったんだもん。
ヨル:それはさっき聞いたけど。
トイ:私の間違いを正してくれたのが、嬉しかったの。
ヨル:……
トイ:もしかして、ファーストキスだったりした?
ヨル:ノーコメント。
トイ:図星だ。
ヨル:……あのさ。
トイ:ん?
ヨル:俺、今でも分からないんだけど、あの時トイがノートに書いてたあの「墜落方程式」って、なんだったの?
トイ:この空を墜落させて、世界を終わらせるための方程式。
ヨル:はあ?
トイ:意味分かんないよね。私も分かんないもん。
ヨル:なにそれ。
トイ:でも本気だったのよ。
ヨル:世界を終わらせたかったってこと?
トイ:そう。
ヨル:でも、なんで「空が墜落」だったわけ?変な言い方だけど、「自分が墜落」でも良かったんじゃない?
トイ:世界を終わらせるなら、自分が墜落した方が手っ取り早いもんね。
ヨル:まあ……言い方は最悪だけど。
トイ:でも私、死にたいわけじゃなかったの。
ヨル:矛盾してない?世界が終わったら、自分も死ぬじゃん。
トイ:だから「意味が分からないよね」って言ったじゃない。
ヨル:本当に意味が分からないんだけど。
トイ:ねえヨル君さ、missi(ミッシー)って知ってる?
ヨル:は?
トイ:やっぱり知らなかったか。だよね。そうだよね。そういうの詳しそうに見えないもん。
ヨル:なんだよ気持ち悪い。
(トイ、スマホを操作し、一枚の画像を見せる)
トイ:はい。この写真見て。これがmissi。今ちょっと人気のモデルさん。
ヨル:これ……トイ?
(トイ、くすくすと笑う)
トイ:どう思う?
ヨル:ちょっと状況が理解できないんだけど。
トイ:ごめんね、私やっぱりトイじゃないの。
ヨル:この、missiってこと?
トイ:それも少し違う。
ヨル:じゃあなに。
トイ:ちょっと長くなるけど、説明してもいい?
ヨル:というか、話したかったんだろ、それを。
トイ:鋭いね。
ヨル:こんなの分からない方が馬鹿だ。やめろよ、そういう回りくどいの。
トイ:嫌いになった?
ヨル:そんなことはないけど。
トイ:言い切ってくれた。良かった。
ヨル:……
(少しの間)
トイ:私ね、姉さんがいたの。
ヨル:知らなかった。
トイ:言ったことなかったから。
ヨル:そっか。
トイ:多分クラスの誰も知らなかったんじゃないかな。ほら私、友達いなかったし。
ヨル:確かに、高校の時は人と話してるの見たことなかったかも。まあ、俺も人の事言えないけど。
トイ:そうだね、ヨル君も割と一人でいた気がする。
ヨル:「俺達友達だよな」みたいなやりとり、苦手なんだよ。
トイ:あるある。高校生くらいだと、特にそうだよね。
ヨル:うん。
トイ:グレーゾーンを作りたいタイプだもんね、ヨル君。
ヨル:はっきりと答えを出すのは数字の世界だけでいいや、って。
トイ:そっか、だから私の方程式の計算ミスにすぐ気付いたんだ。ヨル君、数学の成績良かったもんね。
ヨル:式自体もめちゃくちゃだったけどな、あれ。
トイ:だって私、そんなに数学得意じゃなかったもん。
ヨル:じゃあなんで「墜落方程式」なんて考えようと思ったんだよ。
トイ:私の名前がね、「といみこと」だったから。
ヨル:は?
トイ:数字に出来るでしょ、全部。10、1、3、5、10。
ヨル:言われてみれば。
トイ:それに気付いた時に、このとんでもなく広くて、とんでもなく優しくない世界も、全部数字に置き換えたらもしかしたら結構単純で、この世界に馴染めない私も数字にして分解してしまえば、ちゃんと整頓された存在になるんじゃないか、って思ったの。
ヨル:それって、トイの話したい事に繋がったりする?
トイ:うん。
ヨル:お姉さんの話、でいいんだよね。
トイ:うん。
(少しの間)
トイ:……姉さんがね、missiだったの。
ヨル:だった?
トイ:去年死んじゃったから。
ヨル:……事故?
トイ:ううん。朝、母さんに言われて呼びに行ったら、ドアの向こうで死んでた。
ヨル:なんか、ごめん。
トイ:いいの。
ヨル:そっか。
トイ:原因は分からなかった。仕事のストレスのせいとか、恋に悩んでたんじゃないかとか、みんないっぱい考えてたみたいだけど、結局分からずじまい。
ヨル:それで?なんで今トイはそのお姉さんと同じような恰好をしてるわけ?
トイ:姉さんはね、柱だったの。
ヨル:柱?
トイ:いつも明るくてはつらつとしていて、美人でスタイルのいい姉さん。みんな姉さんが大好きだった。母さんも父さんも、そんな姉さんがいるから、本当は大したことのない自分たちのプライドを保ててたの。
ヨル:トイは?
トイ:私はただのおまけ。ただの「妹」。名前はあるのに、名前がなかった。だから、誰とどう関わっていいのかも分からなくて。
ヨル:それで、「墜落方程式」?
トイ:姉さんが好きだったけど嫌いで、そんな自分も嫌いだった。
ヨル:だけど、自分が墜落したいわけじゃなかった。
トイ:姉さんの「妹」じゃなくて、「都井みこと」になりたかったから。今自分が墜落したら、姉さんの妹のままだな、って思ったんだ。
ヨル:なんとなく、理解した。
トイ:ありがと。
トイ:……柱だった姉さんが死んだことで、我が家も姉さんの周りの大人たちもガッタガタになっちゃってさ。母さんはあっというまに心を病んで、父さんはそんな母さんに嫌気がさして出て行って。しまいに母さんは私の顔を見て、こう呼んだの。……「みさと」って。
ヨル:みさと?
トイ:姉さんの名前。
ヨル:そんな……
トイ:それをたまたま姉さんのマネージャーが見ちゃってさ。「この子、いけます。ちょっと整えればほら、missiそっくりになる」って。
ヨル:……
トイ:姉さんの死をなかったことにして、代わりに私を殺したのよ、あの人たち。私は名前がないまま死んで、もっと訳の分からない存在になっちゃった。
ヨル:ごめん、なんて言っていいか。
トイ:別に何か言って欲しいわけじゃないから、平気。
ヨル:うん。
(少しの間)
トイ:……実はさ。
ヨル:なに?
トイ:本当は偶然じゃないの。ヨル君と今日会ったの。
ヨル:え?
トイ:ヨル君がこの辺の大学に進んだって聞いてたから、待ち伏せしてたの。
ヨル:なんで?
トイ:「トイ」って呼ばれたかったから、かな。
ヨル:別にそれ、俺じゃなくたって。
トイ:言ったじゃない、私の間違いを正してくれたの、ヨル君だけだったって。
ヨル:それだけの理由?
トイ:ヨル君から見れば、そうだね。
ヨル:俺、本当にただ計算間違いを指摘しただけなのに。
トイ:知ってる。だから、このやり取りは不毛だよ。
ヨル:そう、だな。
(少しの間)
トイ:……墜落方程式、完成させようか。
ヨル:は?
トイ:今気付いたの。ヨル君も数字に分解できる。
ヨル:え。
トイ:「不二夜一(ふじよいち)」。2、2、4、1。
ヨル:ほんとだ。
トイ:ね?すごい偶然。それにね、私たちはXでYじゃない?
ヨル:X染色体とY染色体?
トイ:そう。
ヨル:……それ、誘ってるって受け取っていいの?
トイ:……うん。
ヨル:……
トイ:……
ヨル:やめとく。
トイ:そっか。
ヨル:やっぱり計算間違ってるよ、トイ。
トイ:え?
ヨル:今のトイってさ、トイでもmissiでもないわけでしょ。それじゃあ式は作れない。
トイ:……
ヨル:それに俺、まだトイの苦労とか悩みとか、全然理解できていないと思うし。ちゃんとその方程式に向き合える気がしない。
トイ:方程式に向き合う、ってなに?
ヨル:よく……分からないけど。
トイ:そっか。
ヨル:俺、人間に対しては、本当にはっきりとした答えを出せないんだけどさ、あくまでも方程式としてトイとの関係を考えた時、そこにグレーゾーンがあっちゃいけない気がするんだ。
トイ:……
ヨル:このままじゃ間違った答えが出るし、そうしたらトイは、ずうっと墜落方程式を書き続けることになるんじゃない?
トイ:そう、かな?
ヨル:とにかく……だから、ちゃんと「都井みこと」を分解して数字にしたいんだ。
トイ:私にちゃんと「都井みこと」を式にできるようにしてこい、ってこと?
ヨル:そんなことは……あるか、うん。
トイ:難しいことを言うなあ。
ヨル:それは、そうだと思う。ただ、高校時代も今も変わらずに墜落方程式を完成させたいって思うのなら、それがヒントなんじゃないか、って。
トイ:……
ヨル:だから、なんとなく出来ると思ったんだ。
トイ:……じゃあせめて、今キスしていい?
ヨル:それで何か変わるの?
トイ:わかんない。
ヨル:わかんないのかよ。
トイ:うん。これはあの時と同じ、ただの衝動。
トイ:「今日も間違いを正されちゃったなあ」って。……ちゃんと、正されたなあ、って。
ヨル:正してはいないと思うんだけど。
トイ:だからそれは、ヨル君にとっては、でしょ。
ヨル:……うん。
(トイ、ヨルにくちづける)
ヨル:……
トイ:ありがと。
ヨル:別に。
トイ:ねえ。
ヨル:なに?
トイ:私が「都井みこと」の式を作れるようになったら、一緒に「墜落方程式」、完成させてくれる?
ヨル:その時考える。
トイ:そこは「いいよ」って言う流れじゃない?
ヨル:未来のことはグレーゾーンだろ、基本。
トイ:今は白黒はっきりつけて欲しいところなのに。かっこわる。
ヨル:言ってろ。
(トイ、笑う)
ヨル:……そういえばさ。
トイ:ん?
ヨル:今度は何を「墜落」させる気なの?
トイ:おんなじ。空だよ。
ヨル:……
トイ:私が「都井みこと」で式を作れるようになったら、今度こそ空は墜落して、世界は崩壊するの。……私の世界が全部、ね。
ヨル:俺、少し無責任なこと言ったかも。ごめん。
トイ:いいの。だって私が墜落させたいんだもの。あの時よりも、もっとずっと。
ヨル:そっか。
トイ:ん。
(トイ、大きく息を吐く)
ヨル:……こわい?
トイ:ううん。一度殺されたことに比べたら、こんなの全然。それに、死ななきゃ始められなかったことがあるのも、よく分かったし。むしろわくわくする。
ヨル:相変わらず回りくどい言い方するな。何言ってるのか全然分からないんだけど。
トイ:それは、きっとずっと変わらないかも。
ヨル:……慣れるようにする。
トイ:それって、今後に期待してもいいってこと?
ヨル:どうかな。
(二人、くすくすと笑う)
――――――――――――――――――――――――――――――――――――
【幕】