＃55「かくれんぼが終わらなくて。」
（♂1：♀1：不問0）上演時間30～40分
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ミチカ
【藤堂美知香（とうどうみちか）】女性
ホラー映画鑑賞が趣味の会社員。タクホとは大学の同級生で、映画鑑賞サークルの同期。
週に一度、金曜日の夜にタクホの家でホラー映画鑑賞会をしている。
タクホ
【安西拓歩（あんざいたくほ）】男性
ホラー映画鑑賞が趣味の会社員。ミチカとは大学の同級生で、映画鑑賞サークルの同期。
週に一度、金曜日の夜にミチカと自宅でホラー映画鑑賞会をしている。
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―タクホの部屋
タクホ：……いやあ、結構怖かったな、この映画。
ミチカ：ね。カメラワークが最高だった。
タクホ：むやみに音で驚かせないのも良かったよな。
ミチカ：うん。怨霊が最初からアグレッシブ過ぎた気はするけど。
タクホ：でも、ジャパニーズホラーの湿っぽい不気味さはしっかり押さえてたじゃん。
ミチカ：まあそういう新しさとベタをうまく合わせてきた作品って感じだね。人気が出るわけだ。
タクホ：だな。来週は何観る？
ミチカ：その前に、ちょっと聞いてよ。
タクホ：ん？
ミチカ：こないだリカにさ、タクホと付き合ってるんじゃないのー？って聞かれた。
タクホ：はあ？なんで？
ミチカ：こうして週一で会ってるからじゃない？
タクホ：ホラー映画の鑑賞会してるだけなんだけどな。
ミチカ：だよねえ。
タクホ：なんで男と女が仲良く飯食ったり遊んだりすると、すぐに恋愛に結び付けるかねえ。
ミチカ：ほんとに。
タクホ：で、来週どうするよ。
ミチカ：うーん、観たいのいっぱいあるから、少し考える。
タクホ：分かった。んじゃ俺も考えておくから、来週までに電話で一回、観たい映画のプレゼン大会しようぜ。
ミチカ：プレゼン大会って。そんな大げさな。
タクホ：まあいいじゃん。やろうぜ、プレゼン大会。水曜とかどうよ？
ミチカ：仕事で遅くなっちゃうかもだけど、平気？
タクホ：あー、寝ちゃってたらごめん。
ミチカ：オーケー、問題ないよ。タクホ、早寝だからなあ。
タクホ：ミチカが夜更かしなだけだろ。
ミチカ：しょうがないじゃん。タクホと違って、こっちはクライアント都合もあるしさ。
タクホ：クリエイティブ稼業ってのも大変だな。
ミチカ：やりがいはあるけどね。
タクホ：それだけ忙しいのに、よく俺との映画鑑賞の時間が作れるな。
ミチカ：今更？
タクホ：いや、今改めて思ってさ。
ミチカ：趣味の時間はちゃんと作らないと、潰れちゃうもん。
タクホ：ま、そりゃそうか。
ミチカ：そんなことより。ねえ、さっきの話だけど。
タクホ：さっきの話？
ミチカ：ほら、付き合ってるの？って言われた話。
タクホ：あぁそれ？引っ張るなあ。
ミチカ：タクホは言われたことないの？
タクホ：ねえなぁ。
ミチカ：そっか。
タクホ：なんで？
ミチカ：なんとなく。ほら、リカって噂好きでしょ？だから、他でもそういう話、してるんじゃないかって。
タクホ：そういうことか。
ミチカ：うん。
タクホ：まあどんな噂が出たところで、俺ら本当になんにもないしな。
ミチカ：そうだね。
タクホ：「趣味友」って言うなら、俺、他の奴ともたまにこうやって遊ぶし。
ミチカ：え？そうなの？
タクホ：おう。こないだサチとも映画観た。
ミチカ：サチって、サークルの後輩だった？
タクホ：うん。
ミチカ：この家で？
タクホ：他にどこがあるんだよ。
ミチカ：まあ、そうだけど。え、大丈夫だった？
タクホ：何が？
ミチカ：なんかほら、間違い……的な？
タクホ：え、やっちゃったか、ってこと？
ミチカ：もう少し言葉選んでよ。
タクホ：ねえよそんなの。俺がそんなことする男に見える？
ミチカ：……見えない。
タクホ：だろ？
ミチカ：タクホ、趣味に関しては無駄にアグレッシブだけど、それ以外はどっちかっていうとガード硬い方だもんね。
タクホ：そういうこと。だから、間違ってもそんなことにはならねえよ。
ミチカ：そっか。
タクホ：なに？やきもちでもやいた？
ミチカ：なんでそうなるの。
タクホ：んや、なんとなく。口調とか。
ミチカ：付き合ってもいないのに、やきもちもへったくれもないでしょうが。
タクホ：そうなんだけどさ。まあ、なんとなくだよ、なんとなく。
ミチカ：ばっかみたい。
タクホ：ほんとにな。
ミチカ：つーか、そもそも私のこと、女性として見てないでしょ。
タクホ：んや、ちゃんと異性だとは思ってるよ。
ミチカ：え？
タクホ：だってどう見たって男には見えねえし。
ミチカ：ああ、そういうこと。
タクホ：それにミチカ、ちゃんと美人じゃん。
ミチカ：なに、急に。意味わかんない。
タクホ：まあだから、異性だとは思ってるよ、ってこと。
ミチカ：でも、恋愛にはならない、と。
タクホ：お互い様だろ？ミチカだって、俺みたいなタイプは好きにならないだろ。
ミチカ：私は別にタイプとか、そういうのはないけど……
（タクホ、あくびをする）
タクホ：やべぇ、眠くなってきた。
ミチカ：あ、もうこんな時間か。結構遅くなっちゃったね。
タクホ：ミチカどうすんの？泊まってくなら布団出すよ。
ミチカ：ううん、今日はやめとく。明日家で進めたい仕事もあるし。
タクホ：そっか。土曜日なのに大変だな。
ミチカ：ま、やりがいでごまかしてる感じですかね。
タクホ：そか。んじゃ、明日は誰か誘って飯でも行くかな。
ミチカ：うん、いいんじゃない？楽しんできてね。
タクホ：おうサンキュ。んじゃな。
ミチカ：うん、また来週ね。
（タクホ、うつらうつらとしながら）
タクホ：いや、その前に……プレゼン大会……
ミチカ：……そうだったね。オッケー。
タクホ：うん……じゃあおやすみ……
ミチカ：おやすみ。またね。
【間】
―その翌週／タクホの家
ミチカ：ねえ待って。先週のより怖かったんだけど。
タクホ：これは夜トイレ行けなくなるやつだな。
ミチカ：お風呂も怖くなるやつだね。
タクホ：頭洗ってる時とかな。
ミチカ：そうそう。
タクホ：視界が塞がれてる時って、怖いよな。
ミチカ：うん。逆に他の感覚が研ぎ澄まされるからね。
タクホ：なー。
（少しの間）
ミチカ：……ねえ、タクホにとって怖いものってなに？
タクホ：え？
ミチカ：いや、単なる興味本位なんだけどさ。
タクホ：怖いものかぁ……。
ミチカ：うん。
タクホ：自分を頭から否定されること、かな。あと、女に泣かれること。
ミチカ：……
タクホ：なんだよ。
ミチカ：ホラーとは全然関係ない答えでびっくりした。
タクホ：あ、そういう意味だった？悪い。
ミチカ：……なんかあったの？
タクホ：あー……
ミチカ：なに、言ってごらんなさいよ。聞いてあげるから。
タクホ：でもなぁ。
ミチカ：私、学生の頃からずうっとタクホの弱音や愚痴を聞いてきたんだよ？今更でしょ。
タクホ：うん、まあ、そうか。
ミチカ：で？どうしたの？
タクホ：サチとさ、こないだの土曜日、飯食いに行ったんだ。
ミチカ：あ、結局サチを誘ったんだ。
タクホ：まあ家近いし、誘いやすいじゃんあいつ。
ミチカ：ノリいいもんね。
タクホ：でさ、夜俺んちで映画見てたんだけどさ。
ミチカ：うん。
タクホ：……やっちまったらしい。
ミチカ：はあ！？
タクホ：覚えてねえんだけど、どうやらそうらしくて。
ミチカ：ちょ、ちょっと待ってよ。覚えてない、ってどういうこと？
タクホ：映画観た後、感想言い合いながら酒飲んでたんだ。サチ、話を盛り上げるのがすげえ上手いんだよ。色々話してたら楽しくなっちゃって、すげぇ酒も進んでさ。
ミチカ：で、気付いたら朝だった、と？
タクホ：そういうこと。
ミチカ：……
タクホ：それで、さ。告白されたんだよ。
ミチカ：え？
タクホ：ベッドの上で、裸で。
ミチカ：……で、どうしたの。
タクホ：断った。
ミチカ：なんで？
タクホ：なんで、って何。
ミチカ：いやだって、一緒に部屋でお酒飲むくらいの好意はあるわけでしょ？
タクホ：俺、サチは嫌いじゃないけど、別に付き合いたいわけじゃないから。
ミチカ：あんた割と最低なこと言ってるよ。
タクホ：それ、サチにも言われた。こんだけ誘って、家にも上げておいて、しまいにはセックスまでしておいてそれはない、って。
ミチカ：……だろうね。
タクホ：で、泣かれた。
ミチカ：サチは気軽に男と遊ぶってタイプじゃないからね。あんたがそれに気付かなかったのが悪いわ。
タクホ：俺、裸で土下座して、全力で謝ったんだ。
ミチカ：うん。
タクホ：ずーっと罵られて、泣かれて、最後に平手打ち一発食らって、やっと帰ってもらえた。
ミチカ：そっか。
タクホ：俺さ、別に顔も良くねえし、背だって高いわけじゃねえし、いいとこに勤めてるわけでもなくて、取り柄といったらホラー映画の知識くらいでさ。だからこんな俺、別に好きになる奴なんかいないと思ってたんだよ。
ミチカ：……
タクホ：それに。
ミチカ：それに？
タクホ：……お前にも言ってなかった話があってさ。
ミチカ：なに？
タクホ：俺の親父さ、死んでるじゃん？
ミチカ：うん。
タクホ：俺が高校生の時、精神を病んで自殺したんだ。
ミチカ：そうだったの？
タクホ：ああ。少しずつおかしくなっていって、ある日突然訳の分からないことを叫びながら走り出してさ。俺と弟で全力でしがみついたんだけど、ものすごい力で振りほどかれて。で、そのまま納戸に籠って首吊った。
ミチカ：そんな……
タクホ：それ以来、それを知っている人間の中には、俺のことを「そういう男の息子だから、いずれはあいつもおかしくなる」って目で見る奴が結構いてさ。これまで仲良くしてた近所の人や学校の友達が、俺のことを遠巻きにするようになったんだ。
ミチカ：……うん。
タクホ：その時付き合ってた彼女にも、同じようなことを言われて振られたんだよ。
ミチカ：でも、そういう病気に遺伝の要素はないわけだし、あんたは全く関係ないじゃない。むしろ、すごく苦しい思いをした側なわけで。それなのに……
タクホ：そう信じてたよ、俺も。だけど、周りがそういう目で見れば見るほど、「もしかしたら本当にそうなのかも」って思えてきてさ。刷り込みっていうのかな、これも。
ミチカ：そうかもしれない、ね。
タクホ：だから、俺からは絶対に人に深入りはしない。誰かと仲良く楽しくはやりたいけど、当たり障りなくいよう、って決めてたわけ。
ミチカ：だから……？
タクホ：そう。大抵の人間は俺の事を「フラフラへらへらしたチャランポラン」だと思ってる。でもそれでいいんだわ。
ミチカ：でもサチにとっては、そう見えなかったわけでしょ。失敗してるじゃん。
タクホ：だな。
ミチカ：結局、どうやって断ったの？
タクホ：今話したことと全く同じことを伝えた。で、「こんな男だけど、それでも好きですか？」って。あんまねえけど、深入りしてきそうな女の子には、いつもこれ言って、向こうから断ってもらってたんだ。大体は嫌がるからさ、こんな過去持ちは。
ミチカ：それで、サチはなんて？
タクホ：すげえ怒られた。
ミチカ：怒られた？
タクホ：「そんな大事なこと後出しにするなんてずるい」って、火に油注いじまった。
ミチカ：……ばか。
タクホ：ばかだよな。
ミチカ：あんたのことじゃないわよ。
タクホ：そっか。ありがと。
ミチカ：……
タクホ：まあそんなわけで、頭から自分を否定されるとそういう古傷？みたいのが痛むし、女に泣かれるのも同じ理由で、やっぱり俺は欠陥品なんだ、って思わされるから、怖いんだよ。
（少しの間）
ミチカ：……よしよし、ってしてあげた方がいい？
タクホ：やめろよ、ガラじゃない。
ミチカ：だよね。
タクホ：俺の話はもういいだろ。暗くなるだけだし。で？お前の怖いものは？
ミチカ：……かくれんぼ、かな？
タクホ：かくれんぼ？
ミチカ：うん。
タクホ：なんで？
ミチカ：子供の頃にね、かくれんぼで隠れてたらそのまま忘れられちゃったことがあったんだ。
タクホ：マジか。
ミチカ：「いつ見つけてくれるかな」って思いながら、あちこちから聞こえる皆の笑い声を聞いてたんだけど、段々とそれも聞こえなくなっていって、段々と辺りは暗くなるし、すごく怖くて震えてた。
タクホ：結局どうなったんだよ。
ミチカ：日が落ちても帰ってこないことを心配した両親が友達の家に連絡して、やっと忘れられてたことに気付いてもらえたの。すぐに探しに来てもらって、それでおしまい。
タクホ：静かになったあたりで変だと思って帰らなかったのか？
ミチカ：そうだね、大人の考え方はそうだと思う。
タクホ：どういう意味？
ミチカ：かくれんぼ、ってさ、見つけてもらわないと終わらないじゃない？
タクホ：当り前だろ。
ミチカ：隠れるのは、見つけてほしいんだよ。見つけてもらわなきゃ終われないんだもん。
タクホ：うん。
ミチカ：見つけてもらえないと、そこでいつまでも時間が止まっちゃうの。動けなくなっちゃうの。
タクホ：……
ミチカ：だから私は、かくれんぼが怖い。
タクホ：そっか。
ミチカ：うん。
タクホ：まあでも、大人になった今ならもうかくれんぼなんかしないし、大丈夫だろ。
ミチカ：するよ。
タクホ：え？
ミチカ：気持ちのかくれんぼは、いつだってしてる。
タクホ：気持ちのかくれんぼ？
ミチカ：おんなじなんだよ。気持ちを隠すのも、やっぱり見つけてほしいんだよ。
タクホ：ミチカ？
ミチカ：……やきもちで、いいよ。
タクホ：は？
ミチカ：あんたと一緒にこうやってホラー映画を見るようになって、どれくらい経つっけ？
タクホ：大学のサークルの新歓コンパで、お互いホラーが好きってことが分かってからだから、えーと、5年くらい？
ミチカ：結構長いよね。
タクホ：まあ……そうだな。
ミチカ：その間にいろんな話もしたし。
タクホ：主に俺がなんかやらかして、叱られるか励まされるか、だったけどな。なんなら今も。
ミチカ：そうだね。あんたは本当にフラフラへらへらのチャランポランで、しょうもなくて。だから、そんなあんたと毎週映画を観る約束をしてる私は、なんとなくタクホの特別なんだと思ってた。
タクホ：特別だよ。これまでも言ってきたろ？特別な友人だって。どうでもいい奴と5年も一緒に、毎週映画は見ねえよ。
ミチカ：だよね。だから、本当に特別なんだと思ってたし、私にとっても特別だった。
タクホ：……なんだよ、急に。
ミチカ：他の女の子に気軽に声をかけて遊びに行くのを見ても、私は特別だから、って思ってた。特別な、友人。
タクホ：……
ミチカ：でも、特別じゃなかった。
タクホ：俺、お前みたいに頭良くねえんだ。俺にも分かるように言ってくれ。
ミチカ：この家に上がれるのは、この家で眠れるのは私だけだと思ってたんだ。あんたの込み入った話を一番最初に聞くのも、私だと思ってた。
タクホ：……サチのこと？
ミチカ：……
タクホ：そりゃサチは話してて楽しいけどさ。怖がりだからホラーは一緒に見られないし、あの晩だって泊めるつもりなんかなかった。言っておくけど、ああいうことがなけりゃ、俺の過去も話すことはなかったからな。
ミチカ：だから、私の勝手なやきもちでいいよ。
タクホ：友人としての、だよな？
ミチカ：うん、そう……
（ミチカ、小さく鼻をすする）
タクホ：ミチカ？
ミチカ：隠れるのは、隠すのは、見つけてほしいからなんだよ。
タクホ：……それは、さっき聞いた。
ミチカ：ねえ、私が今ここであんたを押し倒したらどうする？
タクホ：はあ！？
ミチカ：冗談だよ。
タクホ：そんな顔で冗談なんか言うなよ。どうしたらいいか分かんねえよ。
ミチカ：5年も終わらないかくれんぼを続けてたなんて、さすがに間抜け過ぎるよね。
タクホ：なあ、ほんとどうしたんだよ。俺お前になんかしたか？
ミチカ：ううん、何もしてない。私が勝手にかくれんぼを始めて、勝手に帰れなくなっただけ。
タクホ：俺に何か、見つけてほしかったのか？
ミチカ：歳を重ねるごとに、大人になるたびに、「女」になるたびに、隠すのばっかり上手くなっちゃった。
タクホ：なあ
ミチカ：言わないで。
タクホ：言うな、ったって……さすがに俺でも分かったわ。
ミチカ：でも、言わないで。
タクホ：なんで？
ミチカ：だって、私は特別じゃない、って分かったもん。
タクホ：だからそんなことないって。
ミチカ：でも深入りするつもりはないんでしょ？だから、過去の話もしてくれなかった。
タクホ：……
ミチカ：あんたとの友人関係が長くなればなるほど、私は息を潜めて隠れることしかできなくなっていった。怖くて怖くて。でもいつか見つけてもらえる、だって私は特別だもの、って思ってきた、けど。……もうだめだ。
タクホ：……俺どうしたらいいか分かんねえよ。
ミチカ：だよね。タクホにはちょっと荷が重い案件だもの。伊達に5年一緒にいないからね、複雑な状況が苦手なのは、よく分かってる。へらへらやり過ごしたいのも、分かってる。だから、言わないでいいの。
タクホ：でもお前、つらいんだろ？さすがにほっとけねえよ。
ミチカ：大丈夫。ちゃんと自分でケリをつけるから。隠れて震えてる子供の自分の肩を抱いて、「もうかくれんぼは終わったよ。おうちに帰ろう」って言うだけだもの。
タクホ：それ、俺すげえかっこ悪いじゃんか。
ミチカ：今更何言ってるの。あんたがかっこ悪いのなんかずっと前からでしょ。
タクホ：じゃあなんでずっと一緒にいたんだよ。
ミチカ：あんたもかくれんぼをしてる気がした。なんてね。
（少しの間）
タクホ：……俺、もうお前のこと誘えねえよ。
ミチカ：そうだよね。でも、それでいいの。私、これ以上あんたのかっこ悪い姿見たくないもん。困らせたくない。
タクホ：幻滅していいのに。
ミチカ：それができたら苦労してないよ。ばか。
タクホ：……そっか。すまん。
ミチカ：いいって。じゃ、私帰るね。映画、面白かった。また観ようね。
タクホ：だからもう
ミチカ：せめて、いい友人の顔で帰らせてよ。友人でも、それくらいのわがままは許されるでしょ？
タクホ：分かった。それじゃあ……またな。
（ミチカ、部屋を出ていくが、じきに立ち止まり、泣き出す）
ミチカ：う……っ、あっ……あっあぁぁ……
タクホ：……来週の金曜は、誰か誘って飯でも行くか。
（ミチカ、泣き続けている）
タクホ：困らせたくない、とか。今更そりゃねえよ。……ちくしょう。
【間】
―数週間後
（ミチカ、電話をしながらビルから出てくる）
ミチカ：はい、藤堂です。あ、お世話になっております。先日提出したデザインは……え？今からデザインの変更？そうしますと、当初のご予算より……はい、はい……分かりました。では明後日に変更案をいくつか作成してお持ちします。……はい。では、失礼致します。
（ミチカ、電話を切る）
ミチカ：……はあ。全くもう……！
（タクホが立っている）
タクホ：よぉ。
ミチカ：タクホ！？
タクホ：相変わらず忙しそうだな。待ちくたびれたわ。
ミチカ：……なんで？
タクホ：暇だったから。
ミチカ：なんで？
タクホ：誰もつかまらなくて。
ミチカ：そうじゃなくて。
タクホ：……
ミチカ：なんで、私？
タクホ：……あれからさ、色んな奴と飯食ったり映画見たりしてみたんだわ。
ミチカ：うん。
タクホ：それなりに面白いし、楽しいんだけどさ。
ミチカ：うん。
タクホ：居心地の良さが段違いなんだよ。
ミチカ：……誰と比べて？
タクホ：それ聞く？
ミチカ：聞く。聞きたいことは、全部聞く。じゃないと納得できない。
タクホ：めんどくさいよなぁ、そういうとこ。昔から。
ミチカ：今更でしょ。
タクホ：まあそうなんだけど。
ミチカ：それで？
タクホ：お前と遊んでる時の居心地の良さって半端じゃなかったんだな、って。
ミチカ：そうやってまた、期待させるようなこと言うの？
タクホ：いいから最後まで聞けって。ほんとそれ、ミチカの悪い癖だぞ。
ミチカ：……ごめん。
タクホ：うん。
（少しの間）
タクホ：……で、俺気付いたんだ。
ミチカ：何を？
タクホ：ミチカが俺から離れてったの、俺の過去の話のせいじゃなかったな、って。
ミチカ：だってそれ、私にとっては「それはそれ」って話だもの。
タクホ：それに、俺の事最後まで責めなかったな、って。
ミチカ：それは……どうだろう。否定したい気持ちがなかったとは言わない。
タクホ：あれ、そうだったか。俺都合よく解釈しちゃったか。
ミチカ：……
タクホ：……まあいいや。俺は、否定されたとは思わなかったんだし。
ミチカ：……それで？
タクホ：これ以上は上手く言葉が出ねえよ。
ミチカ：なんでいつも大事なところでそうなるのよ、あんたは。
タクホ：ああもう。いいから、ほれ。手ぇ出せよ。
ミチカ：手？
タクホ：いいから。
ミチカ：分かった分かった。……はい。
タクホ：よ……っと。
（タクホ、ミチカを抱き寄せる）
ミチカ：ちょ、ちょっと！？
タクホ：お前、意外と肉ついてんな。
ミチカ：はあ！？ほんと、あんたなんなの！
タクホ：ミチカ、みーつけた。
ミチカ：……え？
タクホ：みーつけた。
ミチカ：ねえ、それって……
タクホ：なんだよ、もうこれ以上は言わねえぞ。
ミチカ：なんでよ。大事なことでしょ。
タクホ：だって、伝わったろ？
ミチカ：それでも、ちゃんと言わなきゃいけない言葉もあるの。甘えないで、ばか。
タクホ：そんなもんか？
ミチカ：そんなもんです。
タクホ：……そっか。
（タクホ、大きく深呼吸をする）
タクホ：あー……ミチカ？
ミチカ：はい。
タクホ：俺、ミチカが好きです。今まで怖くてごまかしてきただけだ、って、やっと気付きました。他の子と遊ぶのは控えます。でも多分それ以外はこれまでと変わらないと思います。俺がそうでありたいからです。このままへらへら居心地のいい時間過ごして、なんとなく長く一緒にいられたらな、って思ってます。……それでも、俺と一緒にいてくれますか。
ミチカ：……
タクホ：あ、あれ？ミチカ？
ミチカ：……ほんと、腹立つ。
タクホ：え！？
ミチカ：そうやって、いつもシンプルに刺さる言葉言うの、ほんと腹立つ。
タクホ：お前、さっき自分で「ちゃんと言わなきゃいけない言葉がある」って言ったばっかだろ。
ミチカ：そうだけど！
タクホ：で？どうすんの？
ミチカ：……こちらこそ、よろしくお願いします。
タクホ：ん。
（タクホ、ミチカから離れる）
タクホ：……んじゃ、帰ろうぜ。
ミチカ：ご飯、どうする？
タクホ：5時の鐘でかくれんぼが終わったら、家でご飯、が基本だろ？一緒に何か適当に作ろうぜ。
ミチカ：分かった。……ねえ。
タクホ：ん？
ミチカ：今日、何観ようか？
タクホ：結構観たいの溜まってんだよなあ。あれから俺、ホラー観てねえんだ。
ミチカ：私も。
タクホ：プレゼン大会するか？
ミチカ：そうだね。そうしよ。
タクホ：二本観てもいいし。
ミチカ：もう結構遅いよ？いける？
タクホ：泊まっていけばいいじゃん。
ミチカ：え？
タクホ：今までだってこういう時は泊まってたじゃん。
ミチカ：まあそれは、そうなんだけど。
タクホ：なに？なんか変なこと考えた？
ミチカ：は？考えてないし。ばっかじゃないの。
タクホ：はいはい、悪うございましたー。
ミチカ：ほら、帰るよ！
タクホ：おう、帰ろう。
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【幕】