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​​#6「カケルナ」

(♂1:♀1:不問0)上演時間15~20分

#1「あまなつ」: 全商品のリスト

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・相澤

【相澤(あいざわ)】男性

オカルト同好会に所属する大学生で、望月と一緒に「ヤマダスミコ」という名の都市伝説を創作する。

 

・望月

【望月(もちづき)】

オカルト同好会に所属する大学生で、相澤と一緒に「ヤマダスミコ」という名の都市伝説を創作する。


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―プロローグ

(相澤、オンライン掲示板に書き込みをしている)

相澤:なあ、「ヤマダスミコ」って知ってるか?

 

(少しの間)

相澤:スレの流れも停滞してるし、ちょっと投下していくわ。

 

(少しの間)

 

相澤:俺の友達の弟が学校の同級生から聞いた話なんだけどさ。なんでも歩きスマホで信号に気付かなくて、トラックに轢かれた女の名前なんだと。しかもそのまま二十メートルくらいひきずられて、右半身はぐちゃぐちゃだったらしい。……で、問題はその後だ。それ以来、事故現場になった交差点に「いる」んだって。右半身がぐちゃぐちゃの、女が。そして目が合うと「見えてるんだろう?」って言いながら、猛スピードで追いかけてくるそうだ。つかまったら終わり。

(少しの間)

相澤:いや、それは「死ぬ」ってことだろ、普通に考えたら。実際、弟の同級生の家の近所でも、謎の死を遂げた人間がいたらしいぞ。犠牲者を増やさないためにも、どこの交差点なのかは伏せておく。でもいいか?もし万が一「ヤマダスミコ」を見かけたら……絶対に気付かないふりをしろ。目を合わせるな。

 

【間】

―相澤と望月の通話

望月:もしもーし。

相澤:おっすおっす、お疲れー。

望月:バイト終わった?

 

相澤:もう終わって帰ってきた。

 

望月:おお、お疲れ。

 

相澤:どうもどうも。

 

望月:で、どうしたの? 

 

相澤:どうしたの、ってお前。

 

望月:ごめんごめん、癖みたいなもんだってば。帰ってくるの、待ってた。

 

相澤:おう。悪いな、待たせて。

 

望月:平気平気。んじゃ、始めますか。掲示板チェック。

 

相澤:ちょっと待って、今俺もパソコン立ち上げるわ。

 

(少しの間)

(相澤と望月、それぞれオンライン掲示板を眺める)

望月:おぉ……。

相澤:結構反響あるな。俺の書き込みへのレス、増えてるじゃん。

 

望月:ね。なかなかいい感じ。

相澤:な?言った通りだったろ?

 

望月:悔しいけど、ね。「今度の研究会でのネタなんだけど、俺らで都市伝説を作ってみないか?」なんて言われた時は、こいつ何言ってるんだ、って思ったけど。

 

相澤:だってネタの発表会ったって、結局オカルト情報サイトに載っているネタを検証するばっかじゃん?しかもサイトにある以上のことは出てこない。つまんねえって。

 

望月:そうかもしれないけどさ。じゃあネタを作っちまおう、なんて発想に行くあたりがすごいよね。

 

相澤:だろう?

 

望月:……調子乗んな。

 

相澤:へいへい。

 

望月:「ヤマダスミコ」って名前、最初は適当過ぎてくそダサいと思ったんだけど、こうやって話題になっているのを見ると、なんとなくしっくり来るようになってきたよ。

 

相澤:都市伝説の名前なんかダサくていいんだって。

 

望月:うん。

 

相澤:都市伝説ってのはさ、噂の出所を検索できない子供の間で広まっていくことが多いんだ。だから、子供にとって覚えやすくて、口にしやすい名前がベストなんだよ。

 

望月:「口裂け女」しかり、「カシマレイコ」しかり、みたいな?

 

相澤:そそ。で、内容もどこにでもあるようなものの方がいい、ってのが俺の持論。

 

望月:確かに、今回の「ヤマダスミコ」みたいな「交通事故で死んだ女」ってのはベタだよね。

相澤:まあ実際に俺の家の近所であったことだしな。

望月:そういえばそっか。

 

相澤:でもそれだけじゃ駄目だ。ありきたりなだけじゃ、な。できるだけ凄惨な要素がないと。派手な話ほど、誰かと共有したくなるもんだ。

 

望月:ある種の野次馬根性、だね。

 

相澤:そういうこと。

 

望月:ね、ね、私の「トラックにはねられた後ひきずられて、右半身がぐちゃぐちゃになった」は結構秀逸だったと思うんだけど。

 

相澤:おう、あれは良かった。

 

望月:ふっふーん。

 

相澤:でも、まだ足りない。

 

望月:何か新しい要素、でしょ。それで「歩きスマホをしていてはねられた」ってのを追加したんだよね、確か。

相澤:歩きスマホが問題として取り上げられるようになったのは、ここ数年だから、これを入れることで、比較的新し目の話ってことで話題になりやすい。

望月:……ねえ今更なんだけどさ、その辺の話、もう耳タコ。

 

相澤:……まあ「ヤマダスミコ」を作った時に話した内容だしな。

 

望月:何度もね。

相澤:いいだろぉ?結構自信のある持論なんだよ。

 

望月:はいはい。でもあれだね、理想通りの広まり方をしてるんじゃないかな、これ。

 

相澤:おう。

 

望月:ほら、この125の書き込み、見て。

 

相澤:125ね、ちょい待ち。

 

望月:「俺の甥っ子の学校でも話題になってるらしい。ちなみに関東」って。

 

相澤:おお、いいね!

 

望月:あとほら、168の書き込み。「大阪の俺のところでも聞いた。どこの交差点に現れるか分からない、ってことで、全国に広まってる感じだな」。

 

相澤:よーしよし、狙い通り!

望月:あ、ねえねえ。173見て。

 

相澤:「目が合ったら『見えてるんだろう?』と言って追いかけてくる、追いつかれたら死ぬ、ってのはベタだけどな」……うるせえ!

 

望月:(笑う)

 

相澤:身の危険を感じるから怖いんだろうが!

 

望月:まあそうムキになりなさんなって。……ん?

 

相澤:どうした?

 

望月:189の書き込みなんだけど、私たちが作ってない設定が追加されてる。

 

相澤:おお、いよいよ都市伝説らしくなってきたな。どれどれ……?「追いつかれたら死ぬ?俺のところは、『ある電話番号にかけると死ぬ』って話だったぞ。かけると『この電話番号は現在使用されておりません』ってアナウンスが流れるんだけど、切った直後に非通知で電話がかかってくるんだと。で、それに出たら死ぬって話」。……へぇ、面白いじゃん、これ。

 

望月:ね、それっぽい。噂に尾ひれがついて広まってこそだよね、こういうのは。

 

相澤:望月も分かってきたじゃねえか。

 

望月:なめんなよ。

 

相澤:なめてねえよ。

 

望月:でもさ、この電話番号っての、気になるね。

 

相澤:この書き込み以降、レスも滅茶苦茶増えてるしな。

 

望月:うんうん。

 

相澤:あ。

 

望月:ん?

 

相澤:あった。

 

望月:なにが?

 

相澤:電話番号。

 

望月:マジ?

 

相澤:マジマジ。ほれ、264。

 

望月:……マジだ。最新のレスじゃん、これ。しかも書き込みも五分前。189の人かなぁ。

相澤:分からん。というか、そこはあんまり関係ねえな。

 

望月:なんで?

 

相澤:色んな人間が尾ひれをつけていくことで、都市伝説を育てるんだよ。地域差のある都市伝説なんて山ほどあるしな。むしろそうなってからが本物だろ。

望月:なるほどねえ。

 

相澤:なあ望月。

 

望月:なに?

 

相澤:この電話番号に掛けてみてくれよ。

 

望月:はあぁ!?なんで!?

 

相澤:面白そうじゃん。

 

望月:嫌だよ。

 

相澤:なんで?

 

望月:こんなところに晒されてる電話番号なんて、絶対掛けたらまずい番号だって。

相澤:掛けたらまずい番号ってなんだよ。

 

望月:……お金取られるとか。

 

相澤:なんだよそれ。

 

望月:絶対いたずらだってば、こういうのは。

相澤:なに、もしかして怖いの?

 

望月:社会的にまずいことになる方が怖いよ。

相澤:呪いは?

 

望月:呪いが怖くてオカルト研究会にいられるか。

 

相澤:じゃあいいじゃん。

 

望月:(ため息)分かった。掛けるよ。興味があるのは事実だし。

相澤:おっ、そう来なくっちゃ。

望月:変なとこに繋がってお金払わなきゃいけなくなったら、一緒に払ってよね。

相澤:分かった分かった。ほれ、早くかけろって。

望月:あ、そうしたら少し待って。通話をパソコンに切り替えるから。

 

(少しの間)

 

望月:はい、お待たせ。

 

相澤:ほいほーい。

 

望月:んじゃ掛けるね。

 

相澤:ちゃんとスピーカーにしろよ。

 

望月:分かってるって。

 

(少しの間) 

 

望月:「現在使われておりません」だったね。

 

相澤:だな。

 

望月:使われていない電話番号調べたのかな、264の人。

 

相澤:だとしたら超優秀だな。どれ、ちょっと盛り上げるためにも書き込んでおくか。

 

(相澤、オンライン掲示板に書き込みを始める)

 

相澤:「おい、本当に使われてない番号じゃねえか。こわ」っと。

(望月の携帯が鳴る)

望月:あ、ちょっと待って。電話。

相澤:あいよ。

望月:あれ、切れちゃった。誰だったんだろ。

相澤:ワンコール詐欺じゃね?まだあるっていうし。

望月:……ねえ。

相澤:なんだよ。

望月:「非通知」だって。

相澤:え?

望月:「非通知」からのワンコール、だった。

 

相澤:おいおいおい、マジかよ。すげえじゃん。マジ「ヤマダスミコ」じゃん。これも書き込みしなきゃな。

 

望月:いやいや、本当に「ヤマダスミコ」なら、私死ぬんですけど。

 

相澤:あほか。「ヤマダスミコ」は俺らが作った架空の化け物だぞ。そんな奴いないってのは、俺ら自身が一番分かってるだろ。ほら、なんだっけ。通信テストの番号だっけか?掛けたら「通信できてますよ」って意味でコールバックがあるやつ。あれじゃねえの?

 

望月:そんなのあった?私知らないんだけど。

 

相澤:そうだったか?

 

望月:うん。

相澤:まあいずれにせよ、ただの偶然だって。気にすんな。

望月:……うん。

(再び望月の携帯が鳴る)

望月:あ。

相澤:今度はなんだよ。

望月:なんかSMSメールが来た。

相澤:ほらな、絶対通信確認だって。

(望月、メールを確認する)

望月:……なに、これ。

相澤:……なんだよ。

望月:写真。

相澤:写真?

望月:夜の交差点の写真。

相澤:は?

望月:ねえ、なんかさすがに気持ち悪いんだけど。

相澤:……手の込んだ悪戯だろ。

望月:どうやってやるのよ、こんなこと。

相澤:知らねえけど。

望月:……

相澤:ああもう!どれ、送ってみ。俺も見るから。

望月:うん。

相澤:お、来た。サンキュ。本当にただの夜の交差点の写真だな。どこだこれ。

望月:どこだっていいよ。

相澤:悪戯の犯人の手掛かりになるものが写ってるかもしれないだろ。

(望月の携帯が鳴る)

 

望月:嘘でしょ……また来た。

相澤:また交差点の写真か?

 

望月:ううん。……今送る。

 

相澤:……住宅街の一本道みたいだな。

 

望月:ねえ。私、この道見覚えあるんだけど。

 

相澤:……

 

望月:あんただって見覚えあるでしょ。この黄色い壁の家。

 

相澤:知らねえ。

 

望月:……これ、私の家の近くだ。

 

相澤:んなわけあるかよ。

 

望月:だって絶対そうだもん!私、毎日大学に行くときに見てるもの、この家!

 

相澤:「メリーさん」じゃあるまいし、そんなことあるかよ。

 

望月:じゃあどうやって……

 

(望月の携帯が鳴る)

望月:ひっ!

 

相澤:どうした!?

望月:ねえほんと嫌なんだけど!

 

相澤:いいから!早く俺に送れ!

 

望月:ねえ本当に!なんなのこれ!?

 

相澤:……このコンビニ

 

望月:(相澤の言葉をさえぎって)今度こそ見覚えあるでしょ!?あんた向井先輩たちと家に来るとき、絶対にここ寄るもんね?

 

相澤:望月、今すぐ家を出ろ。そのまま交番に行け。

 

望月:こんな遅い時間に外に出ろって言うの!?嫌だよ!

 

相澤:「ヤマダスミコ」なんているはずがないんだ。だとすると、これは生きた人間の……考えたくないが、望月のストーカーって可能性しか残らないだろ?

 

望月:……ねえ、これあんたがやってるんじゃないの?

 

相澤:はあ!?

 

望月:あんた、やたらとこの都市伝説を広めるのにご執心だったじゃない?この電話番号だって、ネタ元のあんたが掛けるのが普通じゃない。それなのに、なんだかんだ言って私に掛けさせるように仕向けてさ。

 

(望月の携帯が鳴る)

望月:ほらぁぁぁぁ!絶対にあんたじゃん!この写真!あんたが前に酔ってゲロ吐いた公園じゃん!

相澤:違う!

望月:今日私を怖がらせるために写真撮っておいたんでしょ!?

相澤:違うって言ってるだろ!早く家から出ろ!

(望月の携帯が鳴る)

(望月の呼吸が荒くなる)

望月:あ……あ……!もうほんと、いい加減にして!私のアパートじゃんこれ!私のアパートだよ!この自転車!私のだもん!

 

相澤:望月!本当に俺じゃないんだ!信じてくれ!

 

望月:じゃあ、じゃあ誰がこんなことをするって言うのよぉ!

 

相澤:もう家を出ても間に合わない!頼むから早く、そのスマホで110番しろ!

 

(何度も望月の携帯が鳴る)

 

望月:だめ……間に合わない……!どんどん画像が届く……!階段……廊下……

 

相澤:望月!早く!

 

望月:あ……

 

相澤:望月!?

 

望月:ついちゃった……。

 

相澤:ベランダから逃げろ!

 

望月:あ……ああ……

 

相澤:望月!

 

(少しの間)

 

望月:ぎゃあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!

 

【間】

(静寂。相澤の荒い呼吸だけが響く)

 

相澤:もち……づき……?返事をしてくれ、望月……。望月!

 

(少しの間)

相澤:……なんだ、この音?声?……望月、なのか?おい、望月!?大丈夫か望月!

 

(少しの間/「なにか」を聞く相澤)

 

相澤:あ、あ、あ、あ……うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!

 

【少し長めの間】

 

―エピローグ

 

(相澤、オンライン掲示板に書き込みをしている)

 

相澤:俺は265だ。友達が、死んだ。友達が264の電話番号に掛けた。すぐに非通知で折り返しが来た。そこまでは189が言っていた通りだった。問題はその後だ。そいつの家の近くの交差点の写真が送られてきたんだよ。

 

(少しの間)

 

相澤:ああ。「メリーさん」みたいに、少しずつ彼女の家に近付くような写真が送られて来てさ。そして追いつかれた友達は、死んだ。右半身が、おろし金(がね)でおろされた大根みたいになって。俺、ずっと通話繋いでたんだ。そいつが死ぬ瞬間も。それで、さ。そいつの悲鳴が聞こえてしばらくしたら、声が聞こえたんだ。「お前が掛けてこなければ」って。

(少しの間)

相澤:分からない。「お前が掛けてこなければ」死ななかった、なんじゃないかと、俺は思ってる。「ヤマダスミコ」は実在する。いや、それは半分は嘘かもしれない。歩きスマホをしていてトラックに轢かれた「ヤマダスミコ」という名前の女性が、本当にいたのかもしれないし、同じような原因で死んだ人間たちの無念が「ヤマダスミコ」という名の集合体になったのかもしれないし、それは俺にも分からない。ただひとつ、これだけは言える。もしお前や、お前の身近な人のところに「ヤマダスミコ」の電話番号の噂が来たら、興味本位で掛けるようなことは絶対にするな。いいか?絶対に……

 

(少しの間)

相澤:かけるな。

 

 

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【幕】
 

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