top of page

​​#58「聖バカーチンの悲劇」 

(♂1:♀4:不問0)上演時間20~30


――――――――――――――――――――――――――――――――――――

降谷

【降谷健司(ふるやけんじ)】男性

名門お嬢様学校「聖バカーチン女子高等学院」の教師で、二年B組の担任を務める。

担当は日本史。

 

つむぎ

【宮井つむぎ(みやいつむぎ)】女性

名門お嬢様学校「聖バカーチン女子高等学院」の二年生。宮井商事の社長令嬢。

無邪気で可愛い2-Bのマスコットキャラ。ただしすげぇ馬鹿。

 

愛華

【紅林愛華(くればやしまなか)】女性

名門お嬢様学校「聖バカーチン女子高等学院」の二年生。世界的ファッションブランド創設者の孫。しっかり者で周囲の信頼も厚い2-Bのクラス委員。ただしすげぇ馬鹿。

 

瑠璃子

【神田瑠璃子(かんだるりこ)】女性

名門お嬢様学校「聖バカーチン女子高等学院」の二年生。日本画家の大家、神田青洲の娘。

おっとりとした笑顔が可愛い2-Bの癒し系。ただしすげぇ馬鹿。

 

美鶴

【月白美鶴(つきしろみつる)】女性

名門お嬢様学校「聖バカーチン女子高等学院」の二年生。セレブ御用達の病院「月白メディカルセンター」の院長の娘。

何事にも動じない堂々とした2-Bの憧れの的。ただしすげぇ馬鹿。

​――――――――――――――――――――――――――――――――――――

―聖バカーチン女子高等学院2-Bの教室
 

(チャイムの音)
(チャイムに気付かずゲームに興じる生徒たち)

 

つむぎ:っぎゃー!みんな早く来てぇ!死んじゃう!死んじゃう!
 

愛華:つむぎ、ちょっと頑張ってモンスターから逃げてて。すぐ行くから。
 

つむぎ:無理無理無理!追っかけてく……あっあっあっ、あぁーっ!
 

瑠璃子:あら、つむぎさん死んじゃいました?
 

つむぎ:大丈夫!かろうじて生きてる!お薬飲む時間が欲しい!早く誰か来て!
 

愛華:はい、お待たせ。


つむぎ:愛華(まなか)ぁぁぁぁぁ!
 

瑠璃子:私も到着です。お待たせ致しました。
 

愛華:じゃあまずは閃光弾を一発。はい、ダウン。
 

瑠璃子:その流れるような動き、流石ですわ愛華さん。では私は頭を殴るとしますね。壊しちゃいましょう、頭。
 

つむぎ:よーし!斬って斬って斬りまくるぞー!
 

(降谷、咳払いをする)
 

愛華:ところで、美鶴(みつる)は?
 

美鶴:ん?私?今迷子。
 

瑠璃子:あら大変、お迎えに上がりましょうか?今どちらです?
 

美鶴:んーとね、木と木の間に挟まってる。
 

愛華:木と木の間って挟まれるの?
 

美鶴:知らないけど挟まってるよ。もうね、このゲーム、マップが全然分からない。
 

瑠璃子:確かに上層下層とあるので、少し分かりにくいですわね。

 

美鶴:モンスター以前に道が敵。

 

つむぎ:やったぁ!倒した!

 

美鶴:えぇ、ほんとに?

 

(降谷、もう一度咳払い)

 

愛華:美鶴、剥ぎ取り間に合う?

 

美鶴:多分間に合わない。今どこにいるのかすらも良く分からないし、もうどうしていいか分からなくて、とりあえずうんこ拾ってる。

 

愛華:うんこ?

 

美鶴:うん、うんこ。

 

つむぎ:お掃除?

瑠璃子:あら、つむぎさんご存知ありませんでした?うんこは加工してアイテムに出来るんですのよ。

美鶴:そそ、うんこボール。

 

愛華:回避玉でしょ。

 

美鶴:似たようなもんだって。

 

愛華:とにかく、モンスターに掴まりそうになった時にそれを投げるの。

 

瑠璃子:そうすると、うんこの匂いでモンスターが怯むんですのよ。

 

つむぎ:えぇぇぇぇ、それ、もっと早く知りたかったなぁ。

 

愛華:つむぎ、本当によく掴まってるもんね。

 

つむぎ:私、これからは積極的にうんこ拾っていくよ。うんこ長者になる。

(降谷、ひときわ大きな咳払い)

 

愛華:あら先生、いつのまに。

 

降谷:「あら先生」じゃないよ。ずっといたから。

つむぎ:えっ、ずっと背後にいたの……?

美鶴:こわ。

瑠璃子:ちょっと猟奇的ですわね。

降谷:あのな、とっくにチャイムは鳴ってるんだぞ。

つむぎ:えっ!?

美鶴:あ、ほんとだ。

降谷:教室に入ってみればお前たちはゲームに夢中で一向に俺に気付かないし、しまいには……う……うんこうんこ、って、お前たち……

美鶴:うんこの何が問題なんですか?

つむぎ:うんこはうんこだよねえ?

降谷:「モンスターのフン」って名前だろ、元々。

瑠璃子:あら、先生お詳しいんですのね。

降谷:「モンスターレジェンド」、俺も持ってるんだよ。

愛華:そうなんですね。じゃあフレンド申請してもいいですか?

降谷:好きにしろ。いやそうじゃない。「うんこ」でなく「フン」って言え「フン」って。

つむぎ:ええ、なんで?

瑠璃子:もしかして少し……キャッチーに過ぎましたか?私たち。

降谷:いや、キャッチーとかそういうことじゃなくて。

美鶴:うんこって言う方が可愛くないですか?モノは一緒なんだし。

愛華:大半の女子は可愛いものが好きなんですよ。

つむぎ:ねー?

降谷:あのな、お前たちは曲がりなりにも、「名門」聖バカーチン女子高等学院の生徒なんだぞ。

美鶴:はぁ。

降谷:はい、宮井!

つむぎ:はい!

降谷:聖バカーチンの校訓!

つむぎ:はい!「清く 正しく 麗しく」!です!

降谷:その通り!

つむぎ:やったあ!

愛華:圧政に苦しんでいた領民たちを命懸けで救った、麗しき聖処女バカーチンの生涯に感銘を受けた学園の創設者が掲げたもの……でしたっけ、確か。

降谷:そう!いいか?「麗しく」だぞ、麗しく。麗しの令嬢は「うんこ」なんて言わない!うんこは別に可愛くない!そして!さらに言うならこの聖バカーチンは国内屈指の名門女学院。敷居も高けりゃ学費も高い!そうお前達はお嬢様!お嬢様なんだぞ!?頼むからもう少し自覚を持ってくれ!

美鶴:アイドルはうんこしない……的な?

降谷:近いけど遠いよ!

愛華:……確かに、いささかはしたなかったかもしれませんね。反省します。ほら、皆も。

つむぎ:ごめんなさい。

瑠璃子:申し訳ございませんでした。

 

美鶴:すみませんでした。

 

降谷:分かればよろしい。うんこの話はこれで終わりだ。

 

瑠璃子:あら、まだ何か?


降谷:むしろここからが本題だよ。そもそも、お前たちは今、何のために教室に残されてるんだと思う?

 

(愛華、挙手をする)

 

愛華:はい。

降谷:はい、紅林。

 

愛華:私たちの成績について、ですね。

降谷:そんなに堂々と胸を張って言うことじゃないけど、正解だ。そう、お前たちはこの期末テストで「全教科赤点」という偉業を達成して、ここに残されている。


つむぎ:偉業……!

降谷:胸を張るな、胸を。

美鶴:全教科なんて、確率で言ったらまあまあの低さじゃないですか?ウルトラレアはかたいですね。

降谷:だから胸を張るな。

瑠璃子:少し、照れ臭いですわね。

降谷:照れるな恥じろ。

愛華:でも、出来なかったものは仕方ないじゃありませんか。それを恥じて心を閉ざしていても、前には進めません。

降谷:それは、うん。そうだな。

愛華:ですから、私たちは己の点数を正面から受け止め、胸を張って次へ進みたいと思っているんです。

美鶴:おぉ……!

 

つむぎ:愛華かっこいい……。

 

瑠璃子:さすがクラス委員ですわ。

 

降谷:正面から受け止めるのも、次へ進む意欲があるのもいい。だけど胸を張るな。危機感を持ってくれ。このままだとお前たちは留年だぞ。

つむぎ:え。

愛華:この学校に留年なんてあるんですか?

降谷:前例はない。

美鶴:それなら大丈夫なんじゃないですか?

降谷:大丈夫じゃないから、こうして残されているんだ。

愛華:つまり、私たちの成績が相当に酷い、と、そういうことですか?

降谷:そういうことだ。この聖バカーチンは、さっきも言った通り、名門中の名門だ。制服も可愛い。が、偏差値も大変可愛らしい。それなのに、これまで留年がなかったのは何故か。

美鶴:さあ?


降谷:それはな、ひとえにお前たちの家柄のおかげだ。


愛華:なるほど、つまりこれまでの聖バカーチンの生徒達は、両親からの袖の下で進級、卒業できていたというわけですね。


降谷:手で¥マークを作るな、生々しい。あと「寄付金」と言ってくれ、頼むから。

 

つむぎ:寄付金なら、私たちの家だってしてるよね。

 

美鶴:だねえ。

瑠璃子:それならなおさら、私たちが留年する理由が分かりませんわ。

 

降谷:……寄付金でも許容できないレベルだからだよ。

 

つむぎ:へ?

 

美鶴:私たち、そんなに酷いっけ?

愛華:赤点なら、クラスの皆も似たり寄ったりだと思いますけど。

降谷:あー、じゃあまず、紅林。

 

愛華:はい。

 

降谷:これ、今回のお前の現国の答案な。

 

愛華:はい。

降谷:ここ。大問(だいもん)二の問四。

 

つむぎ:うわぁ、びっしり書いててすごいねえ、愛華。

 

瑠璃子:回答欄が愛華さんに負けてしまっていますわね。愛華さんの文字、とっても窮屈そう。

 

美鶴:なんでこんなに小さくしたんですか、回答欄。

 

降谷:記号問題だからだ。

 

美鶴:え?

 

降谷:はいこれ、問題用紙。大問二の問四。神田読んで。

瑠璃子:「この文章から読み取れる主人公の性格を選択し、記号で答えなさい」。

降谷:そう、「記号で答えなさい」、な?なのにお前の回答は

つむぎ:えーと……「本当の性格を隠していたのかもしれないし、その人の性格はその人にしか分からないから、この質問には答えられません」。

瑠璃子:まあすごい。

 

美鶴:真に主人公に寄り添った答えじゃないですか。いやぁ、やっぱり愛華は頭がいいなあ。

 

降谷:……そうか、分かった。じゃあ次。月白。

 

美鶴:はい。

 

降谷:これな、生物のテスト。大問六。「夏休みの宿題でひまわりを育てて、思ったことや感じたことを書きなさい」。小学校のテストと同じレベルの超サービス問題だ。

 

美鶴:ちゃんと答えましたよ、私。「特にありません」って。

降谷:「特にありません」じゃないんだよ。なんでそんなに堂々としてるの、ほんとに。

 

つむぎ:堂々としてるのが美鶴のかっこいいところですよ?

愛華:そうよね。どんな時も胸を張っている姿はとても頼もしいし、憧れるわよね。

 

瑠璃子:下級生にファンが多いのも頷けますわ。

降谷:うん、それはね、うん、とても素敵なことだと思うよ。だけどこういう問題ではさ、何もなかったとしても普通は適当に、それらしいことをそれっぽーく書くもんじゃないかなあ?

美鶴:そういうものですか?

降谷:そういうものだと思うよ?

美鶴:でも私は、自分に嘘はつけません。

降谷:うん……そうか。……じゃあ次、神田。

瑠璃子:はい。

降谷:英語のテスト。大問三の問二。「下線部のitが指す内容を『~こと』に続く形で答えなさい」。よくある問題だな。

 

愛華:ですね。

 

降谷:はいこれ、神田の答案。

 

つむぎ:「日本の伝統的な楽器は三味線と」……「こと」。

美鶴:瑠璃子らしいじゃん。

愛華:そうね。さすが日本画の大家の娘。とても雅な答えだわ。

降谷:この問題、アゼルバイジャンの童話についてなんだけど。三味線も琴も全く関係ないんだけど。

瑠璃子:そうだったんですのね。「こと」と書いてあったので、私ったらてっきりそういうお話なのかと。なにぶん、文章の中身が全く分からなかったものですから。

愛華:分からずとも自らの強みを生かしてきちんと回答欄を埋める。まさにホスピタリティ、おもてなしの心ね。

降谷:そうかなあ!?

美鶴:それに、とっさにそういうことができるのってすごいと思う。やっぱり瑠璃子は大物だなあ。

降谷:うん……その機転は素晴らしいと俺も思う。でも、そうじゃない。そうじゃないんだ。

つむぎ:はい、先生。

降谷:なんだ。

つむぎ:確かに間違いは間違いかもしれないけど、みんなそんなに問題になるような答えではないと思います。

降谷:そう?そう思う?じゃあとっておきな。ほい、これ。宮井の日本史のテスト。

つむぎ:はい。

降谷:大問一の問五。「日本の茶道を大成させた『せ』で始まる人物を答えなさい」。

瑠璃子:千利休ですわね。私これなら分かりますわ。

愛華:やっぱり大和撫子は伊達じゃないわね。

降谷:そうだな、千利休だ。で、はい、これが宮井の答え。……「瀬戸記念食品」って、なに?

つむぎ:パパの会社の取引先です。はちみつ青汁がおいしくて。

降谷:そうかそうか。それは覚えておかなきゃいけないよな、瀬戸記念食品。でもな、それと茶道は全くの無関係なんだよ。

つむぎ:え、青汁ってお茶とは無関係なんですか?

降谷:無関係だよ?

愛華:そうなんですか?だってあれ、お抹茶の味がするじゃないですか。

降谷:うん、飲みやすいようにね。

美鶴:だったら半分は正解なんじゃないですか?

降谷:半分どころか一ミリもかすってないんだよ。千利休の時代に瀬戸記念食品はなかったんだから。

つむぎ:そっかあ。はちみつ青汁おいしいから、絶対歴史のある会社だと思ってた……。

瑠璃子:つむぎさん、気を落とさないで。方向性は決して間違っていませんでしたわ。

降谷:とにかく、とにかくだ。お前たちの家は名門中の名門。留年なんかしたらそれこそ一族の恥、本当ならご家庭としてもそれは絶っ対に避けたいわけだ。にも関わらず、お前たちの答案をそれぞれのご両親に見せたところ、「さすがにこれは笑えないので、留年でもなんでもさせて、もう少しマシにしてくれ」と全てのご家庭から返ってきた。


愛華:なんですって?


瑠璃子:神仏は私たちを見捨ててしまわれたのでしょうか。

降谷:いいや、見捨てない。少なくとも俺は見捨てない。

つむぎ:先生……

降谷:とはいえ、この前代未聞の事態に、俺達は頭を抱えた。いくらご家庭が許したとはいえ、学校側のメンツも勿論ある。寄付金たくさんもらっちゃってるし。

美鶴:先生、本音が出ちゃってるよ。うんこより出しちゃまずいよ、それ。

瑠璃子:あら、うんこはむしろ出さなければいけないのでは?

降谷:うんこはもういいよ!戻すな!水に流せ!とにかく、そういうわけで担任の俺に白羽の矢が立った。まずは形だけでも追試を実施するように、と。一教科――俺の担当の日本史さえクリアできれば進級とする、問題の内容はもうなんでもいい、と。

愛華:神はここにいたのね……!

降谷:だが俺は悩んだ。お前たちがクリアできる問題とは何か、と。三日三晩悩んだ。

美鶴:それで?


降谷:「いい国作ろう鎌倉幕府」

 

瑠璃子:え?

 

降谷:「いい国作ろう鎌倉幕府」!

 

つむぎ:先生?

降谷:これだけ!これだけ覚えてくれ!明日の追試まででいい!頼むから!

 

降谷:「いい国作ろう鎌倉幕府」!1192年!はい、紅林!「いい国作ろう」!

 

愛華:カ、カンブリア!

 

降谷:惜しい紅林!でもいい感じだ!時代には違いない!

 

降谷:「いい国作ろう鎌倉幕府」!はい繰り返して!

 

瑠璃子:「いい国作ろう鎌倉幕府」!

 

降谷:「いい国作ろう鎌倉幕府」!はい!

 

美鶴:「いい国作ろう鎌倉幕府」!

 

降谷:はい宮井!鎌倉幕府の成立は?

つむぎ:えっと、えっと、4192年!

降谷:時代の先端を行ったな宮井!惜しい!「よい国」じゃなくて「いい国」だ!1192年!

つむぎ:悔しい!

降谷:その悔しさは明日への第一歩だ!大事にしろ!

 

つむぎ:はい!

 

降谷:Hey!「いい国作ろう鎌倉幕府」!

愛華:Yo ! Yo !イチイチキュウニー!

降谷:Say Yo!

美鶴:ヨーォ!

 

降谷:Say Ho, Ho, Ho !


つむぎ:ホーホーホー!

瑠璃子:「いい国作ろう鎌倉幕府」!

愛華:「いい国作ろう鎌倉幕府」!

美鶴:「いい国作ろう」!

つむぎ:「鎌倉幕府」!

 

降谷:オッケー完璧だ!お前たち最高だ!

 

つむぎ:先生!私たち、きっと先生の期待に応えてみせます!

 

愛華:あの夕日に誓って。

 

瑠璃子:明日の追試、必ずや討ち取ってみせますわ。

 

美鶴:聖バカーチンの名にかけて。

 

降谷:お前たち……!ありがとう……ありがとう……! 
 
【間】

 

―翌日

降谷:……お前たち、俺の言いたいことが分かるな?

愛華:さすがに分かります。

降谷:そうか。

降谷:全員零点って……どういうことなんだ!?え、どうして?Whyなぜ?


つむぎ:だって分かる問題が一問もなかったんです……。

降谷:え、なんで?十問中十問同じ問題だよ?「いい国作ろう鎌倉幕府。これは何年?」って。昨日散々やったよね?ね?ねえどうして?どうしてだよぉ……。

 

(降谷、泣きだす)

 

瑠璃子:つい4192年の方で答えてしまいましたわ……。

 

美鶴:私はもはや「セイホーォ」しか覚えてなかった……。

 

愛華:私は逆に鎌倉幕府の方しか覚えてなかったわ……。

 

つむぎ:ポケットの中にハムスターがいたから、それどころじゃなかった……。

 

美鶴:ハムスター?

 

つむぎ:うん、ゆうべ脱走してスカートのポケットに入り込んでたみたい。朝ポケットに手を入れたら「ぶにっ」って。ほら。

 

瑠璃子:あら可愛い。この子のお名前は?

 

つむぎ:これまではジョニーだったんだけど、昨日千利休に改名したんだ。

 

美鶴:つむぎ、それってもしかして。

 

つむぎ:うん、ちゃんと先生に教わったことを忘れないようにしよう、って。

 

愛華:ポケットの中の千利休が気になって「いい国作ろう鎌倉幕府」を忘れてしまったのね。

 

つむぎ:追試がなければ早退したんだけど、追試はちゃんと受けなきゃって思ったから……。

 

愛華:つむぎ……!

つむぎ:でもほら見て。せめて名前だけは綺麗に書こうと思って、時間いっぱい使って、すんごく綺麗に書いたんだよ。

美鶴:つむぎ……!

瑠璃子:なんて健気な……!

 

愛華:……先生。

 

(降谷、鼻をかんでいる)

 

降谷:……はい?

 

愛華:私たちに、最後のチャンスを下さいませんか?

 

降谷:最後のチャンス?

 

美鶴:愛華、それってもう一度追試を受けさせてもらうってこと?

愛華:ええ。先生と私たちの敗因は、覚えなければいけない情報が多すぎたことじゃないかしら。

降谷:そうかなあああああ?

愛華:今回の問題を経て、私たちはどこを覚えればいいかを学んだわけだし、だから次があればちゃあんとクリアできるはずだと思うの。

美鶴:そっか。愛華頭いい!

 

瑠璃子:まったくもってその通りですわね。先生、私からもお願いします。私たちにもう一度チャンスを。千利休のためにも。

 

美鶴:そうだよ、このままじゃ千利休も浮かばれないよ。

降谷:千利休死んだの?

美鶴:先生、お願いします。

つむぎ:千利休の仇を討たせてください。

降谷:千利休、お前の机の上で超元気にうんこしてるじゃん。

 

愛華:先生。

 

(少しの間)

 

降谷:……分かった。俺は、お前たちと最後まで頑張ろう!

 

瑠璃子:まあなんてロマンチック!心中ですわね!

降谷:死ぬな神田!生きろ!

美鶴:そうと決まれば今から覚え直そう!

 

(降谷、ボイスパーカッションを始める)

 

降谷:ドゥンドゥク トゥクトゥク ドゥンドゥク トゥクトゥク

 

美鶴:「いい国作ろう」!

 

愛華:「鎌倉幕府」!

 

つむぎ:「いい国作ろう」!

 

瑠璃子:「鎌倉幕府」!

 

つむぎ:Say !イチイチキュウニー!

 

美鶴:イチイチキュウニー!

 

瑠璃子:イチイチキュウニー!

愛華:イチイチキュウニー!

 

降谷:Yeah, Yeah !イチイチキュウニー!神様仏様聖バカーチン様!迷える子羊に祝福を!
 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――

【幕】

#1「あまなつ」: 全商品のリスト
bottom of page