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​​#1「あまなつ」

(♂1:♀1:不問0)上演時間15~20分


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和哉

【和哉(かずや)】

高校一年生。父親に言われるまま、「神凪町(かんなぎまち)」へやってくる。

夏樹

【夏樹(なつき)】

「神凪町」で和哉を待っていた女性。

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和哉:(モノローグ)高校一年の夏、親父の浮気が発覚した。

両親が揉めに揉めているのを見せるのは、さすがにはばかられると、親父が俺に渡したメモには、知らない住所と『柳井夏樹(やないなつき)』という名前が記されていた。


【間】


―バス停にて


夏樹:あなたが、『和哉』くん?

 

和哉:え……?

 

​夏樹:私、柳井夏樹!お父さんから聞いてるよ。

 

​和哉:女……。​

 

​夏樹:あはは、ごめんね。よく言われるの。男みたいな名前って。
まあこの暑さだし、立ち話もなんだから、とりあえず行こ!


【間】


―夏樹の家


夏樹:今お茶入れるね。その辺座ってて。

 

和哉:あ、うん。


【間】


夏樹:お待たせ。

 

和哉:あのさ。

 

夏樹:ん?

 

和哉:あんただろ。親父の浮気相手。

 

夏樹:そうだよ。

 

和哉:ずいぶんとあっさり認めたね。

 

夏樹:隠したって仕方のないことだもの。それにしても!よく分かったね。

 

和哉:(夏樹の背後を指してI)その後ろのぬいぐるみ。

 

夏樹:ん?これ?「なぎくん」っていうの。この町の、ご当地ゆるキャラっていうのかな。可愛いでしょ。

 

和哉:(ポケットから鍵を出して)ん。

 

夏樹:家の鍵?……あら、ここにもなぎくん。

 

和哉:いつだったか、親父が出張の土産でくれたんだ。……あんたに会いに行ってたんだな。

 

夏樹:あはははははは。あの人が選びそうなお土産だわ。ほかにも美味しいものとか、いっぱいあるのにね。

 

和哉:あんた、いくつ?

 

夏樹:歳?28だよ。

 

和哉:まだまだ若いじゃん。なんで親父みたいなおっさんと。

 

夏樹:その話は、また後でね。片づけなきゃならない仕事があるの。好きに寛(くつろ)いでて。なんにもないところだけど、散歩に出るのもいいと思うわ。夕食は一緒に食べようね。

 

和哉:ちょっと。

 

夏樹:ああ、仕事は隣の部屋でするの。決して覗いてはいけません……ってことはないから、安心して。(笑う)それじゃ、後でね!

 

和哉:……忙しい女。


【間】


和哉:携帯は……さすがに使えるか。それにしても、親父はなんで俺を愛人のところになんて……

(和哉、その場に仰向けに寝転がる)

離婚、すんのかな、やっぱ。……めんどくさ。
(ため息をつく)暇だな。仕事、って言ってたっけ。覗いちゃいけないとは言われなかったけど……。


【間】


―その日の夕食


夏樹:さ、食べよ食べよ。お腹空いちゃった!いただきまーす!

 

和哉:(小声で)……ます。

 

夏樹:どんどん食べてね!和哉くん、育ち盛りなんだしさ!

 

 

和哉:もう育たないよ。中2から止まってるんだ。

 

夏樹:そうなの?でもさ……(和哉の爪先をつつく)

 

和哉:ちょっ、何触って……

 

夏樹:(さえぎって)足、大きいよね。身長の割にさ。だから、これからきっとまた伸びるよ。

 

和哉:どうだか。

 

夏樹:あれ?もしかして、照れた?

和哉:そんなんじゃないし。そんなことより。

 

夏樹:あ、ちょっと待って。デザートもあるの。それ、食べながらにしよ?

 

和哉:オレンジ?

 

夏樹:違うよぉ。甘夏。夏ミカンの一種よ。昼にも言ったでしょう?この町の、「おいしいもの」。

 

和哉:ふぅん。

 

夏樹:で、和哉くんは、何を聞きたいのかな?

 

和哉:そういう聞かれ方されると困るんだけど。

 

夏樹:あはは、そうだよねぇ。んじゃ、あなたのお父さんとの出会いから話そうか。

 

和哉:……うん。

 

夏樹:私ね、この町で死のうとしてたの。

 

和哉:え。

 

夏樹:よくある話よ。愛していた人に裏切られて……ってね。

 

和哉:うん。

 

夏樹:この町はね、彼とたった一度だけ旅行に来た、思い出の場所だったの。だから、死ぬならここかな、って、裏の崖からね。飛び降りようと思ったの。でも実際に下を覗き込んだら、怖くなっちゃって。どうしようどうしよう、って悩んでいたところに、あなたのお父さんが通りかかったの。

 

和哉:それで?

 

夏樹:死のうとしているように見えたのね。まあ、間違ってはいないんだけど。それでね、こう言われたの。
「『死ぬ』っていうのは巣立ちなんだ。だから、勢いでしたらいけない。翼が傷ついている状態ならなおのこと、絶対にしちゃいけない。全ての準備が整った時に自(おの)ずと飛び立てるようになるから、それまで待ちなさい」って。

 

和哉:なに、それ。

 

夏樹:不思議でしょう?お説教なのにお説教じゃなくて。でも、なんだか妙に納得できちゃってさ。じゃあやめておこう、ちゃんと飛べなかったら痛いものね、って思ったの。

 

和哉:……

 

夏樹:でもさ、すっごく傷ついてて、つらかったのも事実だったから、私思わず言っちゃったんだ。
「それなら、巣立ちの準備がちゃんとできるように、傷ついた翼を癒すの、手伝ってくださいよ」ってね。

 

和哉:それも無茶苦茶なんだけど。

 

夏樹:まあそういうわけで、ってことよ。かなり端折(はしょ)った部分もあるけど、そんなところかな。

和哉:それにしてもさ。

 

夏樹:ん?

 

和哉:なんでそんなところに、都合よく親父がいたんだろ。

 

夏樹:さあ?出張で来ていて、空き時間に散歩をしてただけ、って言ってたけれど、本当のところはどうだったのかしら。案外、あの人も死のうとしていたのかもね。でも、私が死のうとしているのを客観的に見て、怖くなったんだったりして。

 

和哉:……適当なこと、言うなよ。

 

夏樹:そうね、ごめん。失言だったわ。
さ、今日はここまで。きっとまだ聞きたいことあるだろうけど、それは明日ね。夕食の時に話のネタがあった方がいいでしょ?

 

和哉:夕飯で話すネタじゃないと思うけど……まあいいや。甘夏、美味いね

 

夏樹:(笑って)でしょう?まだまだあるから、たくさん食べてね。


【間】


―ある日の夕食


和哉:また今日も甘夏?

 

夏樹:たくさん買っちゃったんだもん。飽きた?

 

和哉:いや、好きなんだな、って思って。

 

夏樹:うん、好き。大好き。

 

和哉:親父のさ、どこが良かったの?

 

夏樹:また直球だね。

 

和哉:いや、だって別にかっこよくもないし、金だってあるわけじゃない。家じゃあんまり喋らないし、何考えてるか分からないところあるし、いいところ、あるように思えないんだけど。

 

夏樹:……何も聞かないけど、聞いてくれるところ、かな。

 

和哉:何それ。

 

夏樹:別に私といる時も、あんまり喋らなかったよ、あの人は。でもね、私が話すことはちゃんと聞いてくれた。どんなにおかしなことを言っても、まずはちゃんと聞いてくれた。そういうところ。

 

和哉:よく、分からないんだけど。

 

夏樹:和哉くん、お父さんに似てるよ。

 

和哉:え?

 

夏樹:私さ、和哉くんが来る、って聞いて、迎えに行くの、本当はすっごく怖かったの。
「お前のせいで」って怒鳴られるんじゃないか、ってね。一応、罪悪感はあったから、ね。

 

和哉:そりゃ、良くないことなんだろうけどさ。間違うには間違うなりの理由があるだろうし。大きな間違いであれば、なおさら。だから、一応ちゃんと聞いてから全部……いろんなことを全部決めようと思っただけだよ。

 

夏樹:うん、やっぱり似てる。そういうところ。だから私、あなたと仲良くなれると思った。

 

和哉:俺の意思は無視?

 

夏樹:(身を乗り出して)だって和哉くん、いつも覗いてるじゃない。仕事部屋。

 

和哉:……!

 

夏樹:別にいいのよ?ダメなんて、一言も言ってないし。でもさ、それってちゃんと私に興味を持ってくれてる証拠だと思うんだけど。

 

和哉:親父があんたのどこを気に入ったのか、知ろうと思っただけだよ。

 

夏樹:(笑って)そっか。……さ、夜も遅くなってきたし、続きはまた今度ね。


【間】


―また別の日の夕食


夏樹:そろそろ聞きたい頃かな、って思うんだけど。

和哉:うん。

 

夏樹:結論から言えば、私の意思に関係なく、あの人はもうここには来ないと思う。

 

和哉:離婚したとしても?

 

夏樹:うん。

 

和哉:どうしてそう思うの?

 

夏樹:だってあの人、気付いていたもの。私の翼は、もうとっくに治ってる、って。

和哉:だから?

夏樹:だから、もう自分はいなくても大丈夫。あとはひとりで巣立ちの準備をしなさい、って言うんじゃないかな。

 

和哉:薄情かよ。

 

夏樹:そういう人よ。優しいけど、甘くはないの。これ、みたいにね。

 

和哉:甘夏。

 

夏樹:そ。

 

和哉:あんたはそれでいいの?

 

夏樹:もとからルール違反をしていたのは私だからね。折り込み済みよ。

 

和哉:そんなあっさりいくものなの?

 

夏樹:……もうそろそろ、必要なことは全部話したかな。ちょうどぴったりだったね。帰る日までに間に合ってよかった。荷造りは終わってる?今夜は早く寝なきゃダメよ?(席を立つ)

 

和哉:あ……!(夏樹の服のすそを掴む)

 

夏樹:なあに?

 

和哉:いや、泣くのかと……思って……

 

夏樹:ほんとに、あの人とよく似てるね。大丈夫よ。

和哉:うん……(手を放す)

 

夏樹:ひとつだけ。相手を本気で引き止めたかったら、服のすそなんて掴んじゃダメ。服なんて、簡単にするりと脱ぎ落とせてしまうんだから。

 

和哉:……

 

夏樹:これもあなたのお父さんに言われた言葉よ。
……私はいつも、あの人の服のすそばかり掴んでいたから。

 

和哉:それってさ、

 

夏樹:(さえぎって)さ、本当にこれでもう終わり。寝るわよ。


【間】


―翌日/バス停


夏樹:ふう、バスの時間、間に合って良かった!

 

和哉:お世話になりました。

 

夏樹:(笑う)何よ、急に改まって。

和哉:あと、これ。もらっていっていい?

夏樹:あ!それ!

和哉:仕事部屋のごみ箱に突っ込んであったから、捨てるのかと思って持ってきたんだけど。

 

夏樹:そんな描き損じでいいの?もっとよく描けてるのがあったのに。

 

和哉:俺は、これがいいと思ったから。

 

夏樹:甘夏の絵?

 

和哉:……俺、甘夏、好きになったよ。

 

夏樹:ほんと?嬉しいな。お土産に持たせてあげれば良かったなぁ。

 

和哉:いや、いいよ。今度自分で買いに来るから。

夏樹:ここまで?

和哉:うん。すぐには無理だけど。

 

夏樹:そっか。楽しみができたよ。待ってるね。

 

和哉:うん、それじゃ。

夏樹:さよなら。

 

和哉:またね。


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【幕】

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